雑想庵の破れた障子
ぺんぺん草に埋もれた山中の雑想庵。 破れた障子の小さな穴から見えるものを綴ります。
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お花見に行こう、海流種子散布で北へ広がる ?  ハマオモト (ハマユウ)
有名なハマオモト線 (Crinum Line、クリヌムライン) とは?
ハマオモト線

↑ 植物生理生態学者の 小清水 卓二(こしみず たくじ、1897-1980) 博士が、1938年に発表したハマオモトの分布北限線です。ハマオモトの分布北限が、年平均気温15度、年最低気温平均値-3.5度の等温泉とほぼ一致するとしました。 日本植物学会 が出している学術雑誌 『Journal of Plant Research』 の前身の 『The botanical magazine』 第52巻 第615号 (1938年) に掲載された論文 『On the “Crinum Line” in the Flora of Japan』 が原著論文のようですが、戦前の古い文献は国立国会図書館がデジタルコレクションで見せてくれるものが増えていますが、当該文献は館内限定閲覧で見せてくれません。でも、なぜかネットに落ちていたので拾ってきて、図版を借用しました。

-3.5度とはどういう平年値を言うのか? ハッキリしないが…
●なお、細かなことですが気象ファンとして申すと、平均気温15度はいいとしても、最低気温-3.5度とは何か? であります。論文では 「annual mean minimum -3.5°」 と表記しています。最低気温の年平均が-3.5度という意味でありましょうが、最寒月あるいは最寒旬の最低気温の平年値なのか? 日最低気温の平年値が年間で一番下がったところか? 年最低気温を平均したものか? ハッキリわかりません。しかしながら、すくなくとも最低気温の極値では全くないということであります。 1938年ならば気象庁の前身の東京気象台の時代のハナシでどういう気象観測データをいっているのか分かりませんが、ハマオモト線より南でも最低気温の極値は-3.5度より下がります。たとえばハマオモトの自生が見られる海岸部の観測所でも、最低気温の極値は-6度ぐらいまで下がります。 (房総半島先端)千葉県館山-6.7度、(紀伊半島先端)潮岬-5.0度、(四国南西部)宇和島-6.2度、(九州東岸)宮崎県高鍋-7.0度、(九州西岸)鹿児島県阿久根-4.8度、(山口県西部海岸)下関-6.5度など。

淡路島南部海岸には、ハマオモトの種子が次々に漂着
ハマオモト線は年間最低気温の平均値が-3.5度の等温線と解します。 (月最低気温平年値や日最低気温平年値ならば、かなり北方あるいは内陸部にシフトしますから) これより南側の海岸ではハマオモトが自然分布するというものです。あるいは、この線以南ならば冬の寒さでも越冬して繁殖可能であると考えられます。ハマオモトは砂質海岸で生活する亜熱帯要素の色濃い海岸植物ですが、種子が海流に乗って散布するので、黒潮ならば関東地方以北には流れないのですが、対馬海流ならば本州の日本海側を北上しています。で、うまく対馬海流に乗れば北陸地方や東北地方の日本海側海岸にもハマオモトの種子は漂着するハズです。かりに、漂着したハマオモトの種子が発芽して育っても、冬の寒波にやられてしまい、結局定着できないということでありましょうか? つまり、ハマオモト線というのは繁殖圏北限線なのでしょう。発芽して夏の間ならば育つという意味の生育圏はもう少し北に広がっているのではないか? 淡路島はハマオモト線の南側であるので、ハマオモトの種子が漂着したならば立派に育ち花を咲かせます。淡路島南部の海岸であちこち点々とハマオモトが今を盛りと花を咲かせていますから、お花見に行きましょう!

南あわじ市灘海岸で咲くハマオモト
消波ブロックの間にハマオモトが生じた

ハマオモトを少しアップ
↑ 波消しブロックの間にハマオモトが生じました。写真の個体は1個体なのか複数なのか分かりませんが、15mほど離れた所に別のハマユウの株があります。写真の現場は20年ほど前に出来た小さな砂浜に隣接する護岸です。元は海だったのですが、付近で港湾工事が行われ、潮の流れが変わったためか砂がどんどん堆積して自然に砂浜が形成されました。写真のハマオモトの生えている場所は20年前には陸地ではなく間違いなく海でした。つまり新しく形成された砂浜の護岸波消しブロックの間に、台風の大波でハマオモトの種子が打ちあがったのであろうかと思われます。こういうふうな感じのところが数か所あり、淡路島南部海岸に紀伊水道を通って南からハマオモトの種子が漂着している可能性が大です。

個花を拡大観察
↑ 花被片は6個あって細長く強く反りかえっていて、花被片の基部は合着して細い筒状であります。おしべも6個あり、花柱も花被片と同じぐらいの長さがあり、先端の上半分が紫色です。めしべがどうなっているのかは、花を解剖してみないと写真ではよく分かりません。

花茎の先に30個ぐらいの個花が着く
↑ 太い花茎の先端に30個ぐらいの花 (個別の花) がついていて大変にぎやかであります。花はいっぺんに全部まとめて咲くのではなく、1日2~3個づつ咲いているようです。ハマオモトの花は夕方から夜に咲くと言われ、いろいろな文献によると、 スズメガ の仲間が花粉を運んでいるらしい。スズメガの仲間は口の先の管みたいなもの (口吻、こうふん) が非常に長く、空中静止浮揚 (ホバリング) ができます。で、ハマオモトの花は横向きに咲くがゆえに止まるところがないのでホバリングしながら、ハマオモトの花被片の基部の筒状の奥まで口吻を差しこんで蜜を吸うらしい。花の咲くときに強い芳香があるらしいですが、これはスズメガの仲間を誘引する仕掛けであり、夜になって咲くのはスズメガ類の夜行性に合わせているのではないか。白い花は夜でも浮かび上がって視認できるようにしてあるらしい。で、ハマオモトはスズメガ媒花の代表例です。 → 福原先生の動物媒花:××媒花 の講義が芸術的な写真が多数でよく理解できます。

で、思うのですが、写真家のSさんも、ただ野生の花の写真を撮るだけでは全然芸がありません。それで、夕方にハマオモトの花を訪ねて開花を待ち、夜になって、キイロスズメとかエビガラスズメ等の蛾が来てホバリングしながらハマオモトの蜜を吸う決定的瞬間を狙うのはどうだろうか? それを撮るにはかなりの機材と撮影技術が要りそうで素人には無理です。決定的瞬間をじいーっと待つ執念 (情熱) も要りそう。写真家を名乗るのであればいかがだろうか? (批判ではなく提言です)



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ハマオモトは淡路島 (兵庫県) には、自生していない

かつて、淡路島の付属島の沼島でハマオモトの群落が発見され、大きな話題になりました。しかしその後、それはヒトが植栽したものであることが判明し、淡路島 (兵庫県) にはハマオモトの自生はないということになっています小林禧樹ほか 2012.10 『改訂増補 淡路島の植物誌』 自然環境研究所刊 からその経緯の記述を引用します。

68頁から転記
ハマオモト (ヒガンバナ科)
 多年生草本。本種の分布限界線が年最低気温-3.5℃の等温線に一致することからその等温線を 「はまおもと線」 (Koshizumi1938) と呼ぶことはよく知られている。本州 (関東南部以西)~琉球と、中国 (南部・台湾)、マレーシア・インドに分布する (佐竹ほか 1982a)
 兵庫県については淡路島南端の沼島に生えていることが1972年の調査で知られるようになり、淡路島南部の注目される植物として記録された (中西 1973)。また1980年8月にも室井綽氏らによって確認されている。そこにはハマヒサカキなどが生え自然が残された海浜であり、波打ち際から少し離れたところに本種は群落をつくり自然状態で生育しており、南側にも群落がみられる。その様子から自生を疑わなかった。
 ところが最近になって、沼島のハマオモトは自分が植えたものだという方が現われた。本人 (本田譲氏) にお聞きしたことを要約すると次のようなことになる。 「20年ほど前、沼島出身の下関在住の人から50~80粒のハマオモトの種をもらい、学校の裏山の畑に蒔いた。10数粒が残ったので、もっといい場所はないかと考えて、終戦後の思い出のある古水浜に植えることにした。草の切れている所を探しあちこちに移植ごてを用いて種を蒔いた。種を蒔いたとき海岸にはハマオモトは生えていなかった。何年かして浜に行ってみたところ、思いのほかよく育っており、海からみて右側は記憶のとおりの場所に生えていた。6~7年後に、沼島のハマオモトが話題になっていることを知ったが、発見した人のことを考え、事実を明らかにすることをためらった。」 このように本田氏の話とその後の発見の経緯との間に時間的にも生育状況の点でも一致があることから、沼島のハマオモトは植栽したものと結論づけられた。
 淡路島にはもう一箇所、南淡町の海岸に野生状に生えているところがあるが、これが栽培品の逸出なのか、自生地からの漂着によるものか判断しかねている。

230頁から転記
Crinum asiaticum L. var. japonnicum Baker  ハマオモト
沼島 TK7368, TK395, FK4371 成ヶ島 KH 福良
最近、沼島のハマオモトは私が植えたものだという方が現われたので、植えたときと発見時の状況などを併せて調べた結果、間違いなく植えたものであることが判明した。福良の海岸にも生えているが、逸出の可能性が高い。



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