雑想庵の破れた障子
ぺんぺん草に埋もれた山中の雑想庵。 破れた障子の小さな穴から見えるものを綴ります。
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山頂から見渡せる距離 (その1)
●京都にお住まいの登山家のKさんから、メッセージが届きました。

三俣にはひと夏だけとの思いで入山したのですが、秋、山から下りてくるとスキー場から「ぜひ今年も来て欲しい」との連絡があり「望まれるなら…」と、いい気になって、結局のところズルズルと夏は山小屋、冬はスキー場と、6年間も繰り返す羽目になりました。人間を形成する(であろう)一番大事な30歳前後を足が地に着かない、いい加減なことをして過ごしてしまったわけです。まだ、独身でしたのできたのかも。
勤めでの人間関係のわずらわしさはあまり関係なく、電気(自家発電はあったのですが)もない、水道もない、6月から10月までの4ヶ月間風呂もない、夜明けとともに起き出して、日暮れとともに就寝の日々、自然相手の生活、まことに新鮮に感じたものです。今思うに後悔ですが、当時は案外嬉々としていたのかもしれません。
普通にはどのコースを辿っても2日目にしか到着できない位置なので、360度の眺望ながら周りは山ばかり。下界の灯りはまったく届かず、満天の星だけが降るように輝いていました。
6年間いたのですが、小屋の持ち主は他に、雲ノ平と水晶の小屋のオーナーで、2年間は雲ノ平で過ごしました。
雲ノ平から2時間ほど下ったところに高天原という温泉があります。


●お若いころに、北アルプスの三俣蓮華岳(2841m)の山頂直下の鞍部にある山小屋で働かれたというハナシです。山登りは誰でも、喧騒と雑踏の都会などには全く興味がありません。できれば山の中で暮らしてみたいと思うわけです。人里を遠く離れれば離れるほど、その山が急峻で高ければ高いほど、魅力的なのです。その山登りの思いを叶えられる究極の手段が山小屋で働くということでしょう。アルバイトが長居して本当の山小屋の従業員になったり、野心を起こして自ら山小屋の経営にトライしたりということもあるみたいです。要するに三度の飯よりも好きな山を職場にしてしまう…、山登りならばだれでも一度はそういうことを考えるわけです。年寄りになってはダメですが、20代の若いころには一夏だけでも山小屋でアルバイトをしてみるのは良い経験になりましょう。これから就職をしようという学生さんならば、長野県警とか富山県警に応募して山岳警備隊を目指すなども、選択肢としてありえるかも? わたくし山のキノコも若いころに富士山の山頂で夏の3か月アルバイトしたことがあります。

●三俣蓮華岳からは (たぶん山小屋の場所からはという意味でしょうが)、「360度の眺望ながら周りは山ばかり。下界の灯りはまったく届かず、満天の星だけが降るように輝いていました」ということです。山岳重畳とする北アルプスでは、その山の前衛の山が何重にも取り囲み、しかも小屋が鞍部にあったから下界の灯りが見えなかったのでしょうね。北アルプスでも北陸地方にせり出した立山ならば富山平野の灯りが見えるハズです。山にもよりましょう…。私が山頂でアルバイトした富士山は申すまでもなく独立峰です。海抜高度も他山から突き抜けています。四囲広闊にして遮るものがありません。で、関東平野一円の灯りがよく見えていました。

さて、三俣蓮華岳からの眺望はどこまで見えるのか? ですが少なくとも190キロ先の水平線まで見えるハズです。水平線(地平線)の向こうに高い山があれば、更に遠くまで見えるハズです。しかしながら、手前の山で遮られたら見えないし、ガスがかかっても、霞や黄砂で視程が落ちれば何も見えないのは当然です。富士山から伊豆諸島を眺めたら260キロ先の八丈島まで見えます。ただし、八丈島の海岸部は水平線の向こう側に落ちています。八丈富士854mと東山701mの二つの山が水平線上にポコポコっと出ているのがみえます。340キロほど離れた青ヶ島になるともはや水平線の向こう側です。 


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山頂からの可視距離について考えてみましょう
山頂から、どこまで見渡せるのだろうか? 日本一の標高を誇る富士山を例にとって考えてみます。大昔に中学生のときに学習したピタゴラスの定理で計算します。これは、たぶん、山登り・アウトドアマン・自然観察者の常識だろうと思います。ことさら下手な講釈を垂れるのは釈迦に説法で野暮というものですが、今一度、再確認ということで復習いたしましょう。  (下図は山のキノコ作成)

山頂から水平線までの距離は、直角三角形の一辺の長さを計算すればいい

●まず、富士山の頂上を A とします。また、富士山からはるか水平線を眺め見て、水平線上の任意の一点を B とします。さらに、地球の中心を O とし、富士山の頂上の鉛直真下の海抜0メートルのところを C とします。

富士山の頂上から遥か水平線 (地平線でもいいけど) を眺めて、図中の線分 AB が富士山から見渡せる距離になるのですが、この線分 AB を延長した直線は地球の接線と同等であります。

富士山の頂上 A と、地球の中心 O と、水平線の B の3点で形成される三角形は、明らかに直角三角形です。したがって富士山の頂上 A と水平線の点 B を結ぶ線分 L をピタゴラスの定理から計算すれよろしい。

留意点
1. 富士山の標高は3775.6メートルですが、目の高さ1.4メートルを加えて、3777メートルとします。そうしないと、山頂に寝そべって目の高さを地面に合わせて眺めることになってしまいます。けれども、3776でも3777でもたいして変わりません。どちらでもいいでしょう。

2. 地球の半径を、6371000メートルといたします。理由は次の通りです。
●地球は真の球形ではなく、約23時間56分で1回転している地球楕円回転体です。回転するために遠心力がはたらきます。その遠心力は赤道で最大に、緯度が高くなるにつれて小さく、両極でゼロとなりましょう。そのため世界測地系で、赤道半径が6378137メートル、極半径で6356752メートルと、赤道半径の方が極半径よりも21385メートル膨らんでいます。富士山は北緯35度台にあるのですけれども、北緯35度台の地点では、地球の中心からの半径は赤道半径よりも減少し、楕円形の式から大雑把に計算するとおおよそ6371000メートルぐらいであろうかと思います。 多くの文献やサイトでは6378kmの数値を使っておりますが、それでは富士山が赤道直下にあることになってしまいます。また、6400の数字を使う向きもありますが、それでは大雑把すぎます。それは円周率を3だと言うのに等しいです。なお、このような議論をするときには6.371×10の6乗とすべきであるかもわかりませんが、レポートを書いているわけじゃありませんし、あれやこれやと使かっている数値にどの程度の信頼性があるのか有効桁数が不明なためと、このブログでは指数などの数式が表記できないためであります。


実際の計算方法
計算方法

富士山の高さ3776で実際に計算してみると…
hの2乗を考慮に入れて計算すると、219.381km
hの2乗を無視して計算してみると、219.348km と、僅か33mの誤差です。率にして0.015%、6700分の1の僅かの誤差であります。われわれ山登りが山頂に立って、どこまで見渡せるのだろうか? と眺める際の実用としては6700分の1の誤差など問題になりません。しかも、国内の山は富士山より皆低いです。低ければ低いほど誤差も縮小します。


補記
ところで、以上考察した計算方法は、富士山の頂上から遥か水平線を遠望して、水平線までの直線距離でありましょう。いや、そうではなく、地球表面の距離ではないのか? という考え方も当然出てきます。すなわち、富士山山頂直下の海抜ゼロの点Cから、水平線のB点までの弧の長さなのでは? ということです。つまり角COBの弧の長さということであります。既に線分AB(L)の数値は算出できています。これと、地球半径の数値から、逆三角関数をつかって簡単に計算できます。

カシオ計算機株式会社様が、大変便利で優れ物のサイトを作っております。大いに活用させていただきます。
生活や実務に役立つ計算サイト 『逆三角関数(ラジアン)』 かなり精緻な計算が出来るサイトです。

アークタンジェント219381/6371000 = 0.03442071ラジアン
0.03442071ラジアン × 6371000 = 219260(m)

ピタゴラスの定理から求めたAB (L) の長さの解は、219.381kmであります。
そのAB長と地球半径から角COBのラジアンを計算し、弧CB長を求めると、219.260kmです。
弧の長さの方が、直線距離よりも僅かに短くなるようです。たった121m短いだけです。率にして0.1%短いだけです。1000分の1です。その差は小さく実用的にはこれも無視できそうです。

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大気差の問題について
しかしながら、現実の問題としてこれでハナシは終わりではありません。山の標高の正の平方根に3570を掛けて算出する方法は、決して間違っていません。理論的に幾何学的にそう計算せざるを得ないです。どの数値を採用するか? 有効数字を何桁にするか? などの問題はありましょうがどのように計算してもそんなに違いはありません。ところが、実際の山で観察すると、水平線の向こう側に落ちているハズの物が見えるのです。理論的な計算値よりも5~6%先、すなわち水平線の向こう側が見えるのです。日没寸前の太陽は、本当は、既にそこに太陽はない、見ているのは幻影であるという問題です。

【長くなるので、次エントリーに続く】


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