雑想庵の破れた障子
ぺんぺん草に埋もれた山中の雑想庵。 破れた障子の小さな穴から見えるものを綴ります。
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鳴門海峡の渦潮を、世界自然遺産にだって? アホな。(番外編その1)
世界最大の渦潮はどこにあるのか?
●一昨日の1月29日に、大気の希薄な過疎地に位置する拙ブログではめったにないコメントを戴きました。その何回か会ったことがあるコメンテーターは「大きな渦は他所にも有るみたいですね。」と言うのですが、世界最大の渦潮はどこにあるのか? 一応、隠れSFファンで、むかし日本2大SF同人誌(関東の宇宙塵と関西の星群)の星群に所属したこともあります。推理小説も含めてSFファンならば、世界最大の渦潮はどこにあるのか? という問いには、涼しい顔をして「それはポーの作品の中だよ」と答えるでしょう。SFファンならば10人中7人か8人までそう答えるでしょう。中には、ジュール・ヴェルヌの作品(海底二万里)の中だと答える人もあるかもしれませんが…。

それは、ポーの小説の中?!
●エドガー・アラン・ポーの短編小説 『メエルシュトレエムに呑まれて』 の中に出てくる渦潮はとてつもなく巨大なものです。何十年も昔に創元推理文庫で読んだのですが、たしか直径2マイルの渦だったと記憶しています。しかし、記憶違いがあるかもしれません。10年ほど前に、手元にあったSFや推理文庫本は大部分を古書店に持って行って処分したので、その渦が直径何マイルだったか確認作業は割愛します。話のあらすじはWikipediaを引用させていただきます。

引用開始
 語り手は年老いた漁師に先導されて、ノルウェー海岸の近くにあるロフォーデン州の山ヘルゲッセンの頂上に着く。そこは断崖絶壁になっており、眺望が開けて海と島々の様子が見渡せる。海は荒れ狂っており、一旦静まったかと思うと海流が変化し、突然巨大な渦巻きが現れた。どんな巨船も逃れられないであろう猛烈な大渦。これが「メエルシュトレエム」であった。漁師は語り手に大渦を目の当たりにさせながら、3年前に自身に起こった出来事を語り始める。

 彼は二人の兄弟とともに漁船を出し、渦の起こる近くで漁をしていた。他の漁師たちは大渦巻きを恐れて近寄らないが、そこはいつでもたくさんの水揚げがあった。普段はちゃんと時間を見ながら、潮が緩んで大渦が発生していない時に引き上げるのだが、しかしその日は運悪く、長い海上生活の経験でも予測できなかった嵐に遭遇してしまう。弟はマストごと海の中に吹き飛ばされて消え、彼と兄が乗った船は暴風によって急速に渦の方へ押しやられてしまう。時間を計っておいた漁師は、じきにメエルシュトレエムの活動が終わる頃になるに違いない、と希望を抱いていたのだが、それも空しかった。彼の時計は止まっており、もうすぐ終わるどころか、メエルシュトレエムが荒れ狂っている真っ最中であったのだ。

 船は大渦に捉えられ、回転運動をしながら次第に渦の中心に近づいていき、漁師は観念して渦の様子を見守る。渦の漏斗には船の破片など様々なものが飲み込まれて行っている。その様子を観察しているうちに、彼はやがて、体積の大きいもの、球状のものは早く渦の中心に落下して行くのに対して、円柱状のものは飲み込まれるのに時間がかかっていることに気付く。兄にそれを伝えて共に脱出しようとするが、恐怖で錯乱した兄は言う事を聞かなかった。彼は覚悟を決め、一か八かで円筒状の樽に自分の体を縛り付けて海に飛び込んでいく。船がそのあとすぐに渦の中心に飲み込まれてしまったのに対し、円筒状の樽は飲み込まれずに留まり、渦が消滅するまで持ちこたえることができた。「恐ろしさに髪は真っ白になり、まるで老人のように変わってしまって、助けてくれた漁師たちは誰も私だとわからなかった。あなた(語り手)もロフォーデンの漁師仲間と同じで、こんな事はとても信じられないでしょう」と最後に漁師は締めくくる。
引用終了

●すり鉢というか、蟻地獄のような大渦巻きの縁をぐるぐると回転しながら、渦の中心にジリジリと吸いこまれていくのですが、渦に吸い込まれていく浮遊物体を観察をすると、物体が吸い込まれていくスピードに違いがあることに気づきます。知恵を出して助かる方法を思い付き、潮の流れが変わって渦が消滅するまでの1時間を持ちこたえるというハナシです。

●ハナシとしては大変に面白いし、よく出来ています。絶体絶命の窮地からどうやって脱出するのか? スリル満点の興味深い名編であります。ポーの作品はたくさん翻訳され、多くの読者やファンがいて、日本文学とくに推理小説の分野には大きな影響をおよぼしています。なんせポーの名前を名乗る作家が居るぐらいなのです。有名な 江戸川乱歩 は敬愛するポーの名前をもじったものです。「エドガー・アラン・ポー」=「江戸川乱歩」で、たしかにポーの名前を漢字で上手く写し取っています。

しかし、なんとなく胡散臭い部分もあるが…
●クソまじめで石頭の純文学愛好家たちは、推理やSFを馬鹿にして、あまり評価しないのですけれども、推理は別として、とくにSFの評価基準の大きな要素は 「想像のリアリズム」 があるかどうか? であります。荒唐無稽な、現実にはあり得ないハナシであっても、もし本当にそういうことが起こったならば、そうなるかもしれないというふうな真実味があるのかどうか? です。真実味がありそうな作品は高く評価できると思います。ポーの大渦に飲み込まれていく短編小説は、想像のリアリズムという観点からは、何となく胡散臭いような気がします。

胡散臭く感じるのは、大渦に巻き込まれていくとき、螺旋回転運動している水流に浮かぶ浮遊物が、その浮遊物の形状や体積によって、漂流速度が変わるのかどうか? という問題です。どうなんでしょうかねえ? 正確なところは、そういうことを研究している専門家に聞かないと分かりません。風呂に満水に水を張り、水抜きの栓を抜いて渦巻を作り、色々な物体を浮かべて吸い込まれる様子を観察してみたいのですが、しかし実験するには風呂桶では小さすぎそうです。

●たとえば、ガリレオ・ガリレイがピサの斜塔で物体の落下実験をやったように、空気中で鉄球と紙切れを落下させれば鉄球の方が早く落ちるハズです。むかし月面に到着したアポ計画の宇宙飛行士が、真空中の月面で石と紙切れを落下する実験をやって、同時に着地することを示しました。真空中では鉄球も紙切れも同じ速度で自由落下していくのに、空気中では鉄球よりも紙切れの落下は遅れます。これは、鉄球と紙切れでは空気抵抗の作用のしかたが全然違うからのように思うんですが、つまるところ、静止している空気中を物体が切り分けて落ちていく為に、物体の形状により落下の速度が変わるように思えます。

一方、漂流物が海流で流されていくとか、渦潮に吸い込まれていく場合には、海水が静止しているのでは全くなくて、ちょうどベルトコンベアーみたいに海水自体が動いているハズです。浮遊物はそのベルトコンベアーに乗っかっている状態だと思います。空気中を物体が自由落下するような、静止している物の中を切り分けて進んでいくのではなく、移動している水流のベルトコンベアーに乗っかっているだけなのだから、浮遊物の大小とか形状にあまり関係なく、ほぼ一緒の速度で吸い込まれていくのではないか?? 

●台風の風が中心に近くなるほど風速を増すのと同様に、巨大渦潮に吸い込まれていく浮遊物は、角運動量保存則に従って中心に近づくほど速度を上げることはあっても、その物体が球形であるとか円筒形であるとかでは速度は変わらないのではないのか? その漂流物が、水面上に露出している部分が大きければ、風とか空気の抵抗とか受けるでしょうから速度が変わることがあるかもしれません。また、渦巻に対して物体の大きさが極端に大きければ、物体の渦の中心側と外側とでは水流の速度が違うハズだから、なんらかの影響があって、多分その場合はその浮遊物はクルクルと回転しながら渦巻に吸い込まれていくのではないか??

渦巻状になっている潮の流れとしては、浮遊ブイを使った潮流の観測調査などで巨大なものが知られています。しかし、渦潮らしい渦潮としては、直径2マイルもの巨大渦潮は現実には存在しないでしょうから、ポーは実際の観察に基づいて書いたのではないハズです。想像を逞しくして書いたのであろうと思いますから、それらしく、適当に書いただけではないのか? と思うのですけれども、わたくしは全くの門外漢ですので、専門家に聞かないと本当はどうなのかわかりません…。

Google画像群やYouTube動画などを見ると、ポーの『大渦巻に呑まれて』という名短編の舞台となったノルウェー北西部のロフォーテン諸島をはじめ、世界最強の潮流「ソルトストロウメン」は、鳴門海峡よりも景観・自然美で遥かに上のようです

ポーの小説の舞台になったノルウエーの渦潮「メイルストロム」

Googleでモスケンの大渦巻を画像検索してみた。

【YouTube動画】 ソルトストロウメン メイルストロム ― それは世界最強の潮流 ー
これはポーの小説の舞台となったロフォーテン諸島からは少し離れた別の場所で、ボードーという町の近くらしいですが、世界最強の潮流ということであります。恐ろしいような激流です。
世界最強の潮流が見られるノルウエーのSaltstraumen
↑英語版ウキペディアSaltstraumen(ソルトストロウメンと読むのか?)から写真を借用しました。ソルトストロウメンは狭い海峡であって、世界最強の潮流が見られます。ノルウェー国のノードラン県、ボード市にあり、ボードの町から南東に10キロのところです。フィヨルド湾と外洋大西洋の間をつないでいる水路になっているんですが、そのフィヨルド湾は閉鎖性の湖のようになっていて、外海への出入り口を数個の島で塞いでいます。その島の間の狭い水路(海峡)がソルトストロウメンであります。

多分、そのフィヨルド湾は外海との出入り口が極めて狭いので外海と遮断されていて、水位が常にほぼ一定状態で、外海の方が干満によって水位が2mぐらいの振幅で上下し、するとフィヨルド湾との相対的な水位が1m上がったり下がったりして、その1mの落差が潮流の要因でありましょう。要するに、鳴門海峡や、洲本市の由良港で見られる潮流と同じ原理なのでありましょう。それはさておき、写真をみると風光の素晴らしいロケーションです。とても鳴門海峡では太刀打ちできません。

ノルウェー自転車旅行 「ロフォーテン諸島(Lofoten Islands)」
2004年7月30日より1年間、ノルウェー工科自然科学大学に留学した25歳の青年が、ロフォーテン諸島を自転車旅行された旅行記のようです。第一日目から第7日目まで順に閲覧させていただきましたが、アルプスの中腹から上が海上に浮かんでいるという景観で、万年雪をいただく山あり、氷河あり、氷食尖峰あり、フィヨルドあり、オーロラも出てきています。岩と氷の極北の世界かと思いきやそうでもなく、樹木や森林もあるようです。また付近の海域は世界屈指の漁場でもあるから海洋生態系は豊かであろう思われます。ポーの小説の舞台はモスケネス島の周辺海域の渦潮ですが、そのモスケネス島を含むローフォーテン諸島こそ、鳴門海峡などよりも、遥かに世界自然遺産に近そうです。景観基準だけでなく、地質・地形基準や、生態学基準にも及第しそうな感じがします。バイキングが活躍した地域でもあるみたいで、そうならば文化遺産の要素も含みそうです…。

鳴門海峡の渦潮など、仮に、世界自然遺産候補のリストに載せても、審査の段階で恥を掻くのがオチでありましょう。

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