雑想庵の破れた障子
ぺんぺん草に埋もれた山中の雑想庵。 破れた障子の小さな穴から見えるものを綴ります。
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鳴門海峡の渦潮を、世界自然遺産にだって? アホな。(その8)
1月8日付の拙稿(その1)で取り上げた新聞記事 『鳴門海峡の渦潮 世界遺産への挑戦 ③普遍的価値』 (1月6日神戸新聞朝刊)の記事の中で、ユネスコ前事務局長の松浦晃一郎氏は明言しています。

「もっともっと学術研究を積み重ねてほしい。渦潮を眺めて『素晴らしい』と言うだけでは、世界遺産にたどり着けない」

国連の専門機関であるところの国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会が、候補として上がってきた案件を世界遺産として登録するかしないかの最終審議をしています。上記の言葉はそのユネスコの事務局長を務めた方の発言です。この前事務局長の松浦氏の言葉が暗黙に示唆しています。
鳴門の渦潮は、世界遺産登録の基準の⑦では、とても登録は無理じゃあ。

ここで、自然遺産登録の基準を復習しますと、次の通りであります。なお、①~⑥ が世界文化遺産の基準、⑦~⑩ が世界自然遺産の基準です。

⑦ 類例を見ない自然美および美的要素をもつ優れた自然現象、あるいは地域を含むこと。
⑧ 生命進化の記録、地形形成において進行しつつある重要な地学的過程、あるいは重要な地質学的、自然地理
  学的特徴を含む、地球の歴史の主要な段階を代表とする顕著な例であること。
⑨ 陸上、淡水域、沿岸および海洋の生態系、動植物群集の進化や発展において、進行しつつある重要な生態
  学的・生物学的過程を代表する顕著な例であること。
⑩ 学術上、あるいは保全上の観点から見て、顕著で普遍的な価値をもつ、絶滅のおそれがある種を含む、生物
  の多様性の野生状態における保全にとって、もっとも重要な自然の生育地を含むこと。

もって回った分かりにくい表現なので、端的に要約します。
⑦は、極めて美しい自然であること。
⑧は、地質学・地形学の学術的価値が高いこと。
⑨は、生態学・生物学の学術的価値が高いこと。
⑩は、生物多様性があり、絶滅危惧種が見られること。


さて、鳴門海峡の世界遺産への可能性について、⑦ の景観美の基準ではとても無理なことは、ユネスコ前事務局長の松浦氏が述べています。それゆえ松浦氏は⑧の地質・地形の基準を狙えと指南しています。しかし拙稿(その7)で考察した通り、鳴門海峡は日本地質百選にも選ばれず、国内20箇所ある世界ジオパークや日本ジオパークにも選ばれていません。この20か所のジオパークは地質学・火山学・第四紀学・地形学等の関連科学の専門家たちが評価して選んだものです。新聞記事では「科学者を確保することが優先課題」などと阿呆なことを書いていますが、全く意味ないです。まるで札束を積んで「御用学者を雇いなさい」と言っているみたいです。すでに、国内の地質や関連科学の専門家による貴重性評価は沢山行われているのです。それらの貴重性評価資料に鳴門海峡の名が無いのです。今さら何を研究せよと言うのでしょうかねえ?? 更に付け加えれば、地質関連の評価資料だけでなく、『日本の地形レッドデータブック』という報告書にも鳴門海峡など載っていないのです。専門家たちは鳴門海峡を地質学的・地形学的に保護すべき貴重なものとは評価していないのです。したがって、⑧の地質学基準で鳴門海峡が世界遺産になることは絶望的です。それどころか、日本から⑧の地質・地形の基準で世界遺産を出すのはかなり難しいのではないか?と私は思います。その根拠として、⑧の基準にもとづく世界遺産の候補がないことが指摘できます。それどころか、日本には自然遺産候補自体が1つもありません。

●日本列島は箱庭的で、色々な地質や地形のデパートみたいなものです。地質の多様性はあるんですけれども、個々の物は規模が小さすぎるのです。たとえば富士山をみても、日本一の標高を持つ秀麗な霊峰ではあります。しかし世界的なレベルでは、富士山程度の物件は世界に数十存在していて、ありふれた成層火山なのです。ジャワ島やスマトラ島には富士山のような成層火山は沢山あります。富士山はけっして世界で傑出する特別なものではありません。残念ながら、富士山より遥かに高く立派な成層火山は世界に沢山あります。一例としてメキシコ最高峰の オリサバ山 5636m 

地質学や関連科学の専門家が選んだ日本列島に20ある世界ジオパークや日本ジオパークを見ても、世界の前には見劣りします。世界ジオパークの 北海道 洞爺湖有珠山ジオパーク は世界最大のカルデラ湖のインドネシア スマトラ島のトバ湖 には規模が2まわりぐらい小さいです。同じく世界ジオパークの 糸魚川ジオパーク はフォッサマグナ(中央地溝帯)の西側の断層であるわけですが、アフリカ大陸東部の 大地溝帯 と比べるべくもありません。どちらも2つのプレートの境界であるわけですがやはり規模が2回りは異なります。地質・地形の基準で世界自然遺産に一番近そうな物件でも、世界と比べるとずいぶんと見劣りするのは否めません…。

では、⑨や⑩の基準で、鳴門海峡を世界遺産に登録の可能性は?

●ハッキリ言って論じるだけムダです。全く可能性ゼロであります。
鳴門海峡の岬や島・海岸・海域に、何か特別に多様性を現わす植物相(フロラ)や動物相(ファウナ)が見られると良いのですが、動植物の調査をする大勢の専門家や熱心なアマチュアも参加して、長年調べ上げられています。で、この地域・海域に特別に貴重な生物群集が見られるということは残念ながらありません。

●陸上の高等植物では、淡路側の鳴門岬(門岬)には兵庫県レッドデータブックでBランクのイワタイゲキとか、Cランクのユウスゲとかタイトゴメとか色々と見られますが、全国的には珍しい物でも絶滅危惧種でもありません。この岬は風が強い風衝地であるので、斜面に生えているハマヒサカキ(Cランク)などが見事な扁形樹となっているのが、生物学的に面白いかもしれませんが、扁形樹など全国各地でみられるもので特筆するほどのものではありません。

発見後すぐに野生絶滅した「ナルトオウギ」!

対岸の鳴門市側には、大毛島の海岸砂浜で1950年に ナルトオウギ というマメ科の植物が発見されましたが、まもなく自生地では消滅してしまいました。鳴門市にしか見つかっていない植物だったので、日本の固有種と考えられてきましたが、10年ほど前韓国で見つかったそうです。この絶滅植物(正確には野生絶滅種)が鳴門海峡の両岸の砂浜に見事な大群落を作っていて、厳重に保護されていたならば、世界遺産登録の⑩の基準の材料になりうるのですが、残念ながら既に絶滅しています。

海峡の中に飛島という小島があります。ここにイブキの群落があり大木も混じっているそうなんですが、徳島県の天然記念物になっています。しかし国の天然記念物じゃないし、仮に国の天然記念物であったとしても、天然記念物など全国に沢山あるのです。天然記念物ぐらいで世界遺産とはならないでしょう。

と言うふうに、陸上の高等植物をみても、とても世界遺産に繋がるような材料はなにもないのです。鳥類とか、哺乳類とか、海産動物にまで拡張すると、わたくしは十分な情報を持っていませんが、鳴門海峡周辺に保護すべき貴重な生物群集が存在するというハナシは寡聞にして聞いたことがありません。世界遺産の⑨や⑩の基準に当てはまるようなものは存在していないであろうと思います。

幕末~明治初期までは沢山いた「ニホンアシカ」と「ニホンカワウソ」!

● 環境庁自然保護局 『海棲動物調査報告書』1998年3月 という報告書の120~122ページにニホンアシカについての記述があります。1974年に北海道の礼文島で最後の棲息確認がされて40年近くになります。環境庁のレッドデータブックでは、50年以上生存確認がなされないと「絶滅」としないことから、現在まだ「絶滅危惧種」扱いですが、事実上もはや絶滅したとみなしていいでしょう。動物園で曲芸などをするアシカはカリフォルニアアシカで、絶滅したニホンアシカは体が一回り大きかったとされます。

●ニホンアシカは、明治の初期までは日本全国の海岸に棲息していた記録があるようです。江戸時代にまでさかのぼると、瀬戸内海にも沢山アシカがいたみたいで、昔、鳴門市図書館に行って、鳴門市側の古い資料をあさったことがあるのですが、鳴門海峡にもニホンアシカがいた記録があります。ニホンアシカは古くは「うみうそ」などと呼ばれ、「海に居るカワウソみたいなものだ」という意味ですが、「海獺」の字を当てています。鳴門海峡の海域で昔アシカが波間を戯れていたなどとは、ちょっと信じられないようなハナシでありますが、絶滅の最大要因が油と毛皮が目的の捕獲だったとされています。また、漁師からみたら自分たちの獲物を奪う敵でもあるので、捕殺がかなり行われたと言われています。

ニホンカワウソも、ニホンアシカの後を追って事実上絶滅しています。(環境省のリストでは絶滅危惧状態)戦時中ぐらいまでは淡路島沿岸にもニホンカワウソが結構いたという記録があるみたいです。1954年に淡路島と紀伊半島の間にある友ヶ島で生存確認がされていますが、これが本州では最後の確認です。ニホンカワウソも毛皮目的で捕獲したのが絶滅の最大要因です。カワウソは川だけでなく海にも入って魚を捕るので、漁師さんの敵であり捕殺も行われたようです。

●もし、これらのニホンアシカやニホンカワウソが生き残っていて、日本で最後の生息地として鳴門海峡に数百頭レベルのコロニーを作っていて、絶滅が危惧され、手厚い保護活動がなされていたならば、世界自然遺産の基準⑩に該当する可能性が出てきます。インドネシアの スマトラの熱帯雨林遺産 が2004年に⑦⑨⑩の理由で世界自然遺産に登録されています。生物多様性が見られ絶滅危惧種が居るというのが大きな登録理由ですが、ユネスコのサイトを見ると、スマトラトラ・スマトラサイ・スマトラゾウの写真が麗々しく載っています。絶滅危惧種といっても、その分野の専門家しか知らないような珍奇な昆虫だとかはダメみたいで、誰でもが知っているような分かりやすい大型の哺乳類がいるほうが、高く評価されやすいという印象がします。

しかし、残念ですが、鳴門海峡にアシカやカワウソが沢山いたのは、100年も200年も昔の話なのです。⑨や⑩の基準によって、鳴門海峡が世界遺産になる可能性は絶対に有り得ません…。

鳴門海峡
↑大鳴門橋の右側アンカーブロックから南東方向4.5キロの地点、海抜約100mのホテルニューアワジプラザから遠望しました。渦潮は春から初夏ぐらいの大潮の干潮あるいは満潮のときに見られるだけです。大潮の日であっても潮どまりとか、播磨灘と紀伊水道との落差が少なければ見られません。3月から7月ぐらいの大潮は落差が大きいですが、大潮のピーク前後5日ぐらいが見頃か? だとしたら、渦潮らしい渦潮はは年間365日のうち、5×5の25日ぐらいか? 秋の潮は小さいですし、冬の潮は夜間が大きく昼間は小さいです。25日といっても時間帯はせいぜい2時間ぐらいか? 一日中見られるわけじゃありません。

そもそも渦潮はたんなる「現象」なのであって、その現象が発生する条件が生じたときだけに見られるのです。自然美とか景観美という場合は普通、山とか森林とか湖とか滝などの景観を言うのですが、新緑とか開花とか紅葉とか積雪など、その姿が季節や天気によって変わることはあっても、一年中、何時でも(夜間はダメですが)見られるわけです。そこが「現象」と「景観」の全く違うところです。

大鳴門橋
↑大鳴門橋です。橋梁技術の粋を集めた英知の産物とみるか? 自然美と相容れざる醜悪な夾雑物とみるか? どちらとも言えるのですが、前者の見方は経済至上・技術万能の利権者の見方、後者の見方は自然をこよなく愛するナチュラリストの見方でありましょう。わが南あわじ市にはナチュラリストは少ないようです。

(拙稿は続く)
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コメント
コメント
おたけさん、こんばんは。
コメント、ありがとうございます。

年末には、こくもんじの観察会に参加くださって、ありがとうございました。しかも、写真をたくさん頂戴してありがとうございました。

2、3日前だったか、めったに見ないテレビですが、たまたまNHK神戸のニュースのようなものを見ました。鳴門海峡の紀伊水道側でマグロの群れが回遊してきて、釣り人が25キロほどのマグロを釣ったというハナシで話題が沸騰しているということです。そこで、NHKの記者が福良漁港の釣り船を取材していました。マグロ用の特別な太い仕掛けで釣り人がマグロを狙うも、その取材では結局坊主でした。

NHKは解説で、紀伊半島の西側沖にはもともとマグロはいて、今冬は紀伊水道から鳴門海峡付近まで海水温が高いので、高水温の海域を好むマグロが鳴門海峡まで北上したのです、とフリップに高水温の海域を図に描いたものを示しました。

しかし、海水温が高いというのは本当か? と私は疑問を持ったので、資料に当たってみました。というのは、8月~9月中ごろは気温が平年値を上回ったのですが、秋以降は気温はおおむね平年値より低めです。瀬戸内海や紀伊水道の海水表面温度は、気温変化と1カ月ほどのズレはあるんですが、気温に追随して海水温が変化しています。逆じゃねえか? 瀬戸内海や紀伊水道の海水温は低めじゃないかと思ったのです。

調べてみると、私の直感の方が当たっていました。
http://www.jma-net.go.jp/kobe/kaiyo/jumpo/junpo_fig_sst_a.html
神戸海洋気象台の『海面水温の平年差』の図を閲覧すると、紀伊水道から瀬戸内海では、海水温は平年値から-0.5度~-1.0度になっています。少なくとも、NHKが言うように海水温が平年より高いとう海況では全くありません。

http://www.hyogo-suigi.jp/suion/pdf/so25014.pdf
兵庫県立農林水産技術センターの海水温観測情報をみても、明石や福良で海水温は平年や昨年よりも少し低めで推移しているようです。

NHKはおそらく、漁協の人とか誰かが言うことをそのまま信じて放送で流したようで、報道機関としては必ずすべきウラを取るという手順を怠ったように思います。ま、海水温が高いからマグロが紀伊水道にまで回遊してきたというNHKの解説は全くデタラメで、他の要因がありそうです。どういう要因で鳴門海峡にマグロが回遊してきたのかは私は何の情報も持っていないのですが、最近のNHKは見る価値がなくなっていると感じています。自然界で起こる現象は複雑で、色々な要因が複雑に重なっていることが多く、何が原因で何がその結果なのか、その因果関係を見極めるには大変な調査・観察・観測・解析が要るのに、NHK程の組織が、いとも簡単に「それは高水温のせいだ」と言うのでは、NHKは週刊誌やタブロイド紙とたいして変わらないようであります…。
2013/01/29(火) 22:59:46 | URL | 山のキノコ #js83eNAU [ 編集 ]
>そもそも渦潮はたんなる「現象」なのであって

そうですね、大潮の時雄大な渦が見る事が出来るのですが
大きな渦は他所にも有るみたいですね。

余談ですが、徳島新聞の記事に「黒マグロが鳴門海峡で群れを成してます」
そのような記事を見ました、餌になる小魚を求めてこの海峡まで迷い込んできたのでしょうね
漁師に冗談で根掛りして撓んでいる竿を見て「マグロ釣れたんか?」こう言われる時もあるのですが
マグロが回遊してるのですから、どう行動しているか漁師の動きが気になりますね。
市場になんか出て競りが始まったりしたら、どこの海域まで越境したのか問い詰められないかな。
驚くことが起きるので、最近のニュースには関心があります。
2013/01/29(火) 13:37:49 | URL | おたけ #oKUqqsRc [ 編集 ]
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