雑想庵の破れた障子
ぺんぺん草に埋もれた山中の雑想庵。 破れた障子の小さな穴から見えるものを綴ります。
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鳴門海峡の渦潮を、世界自然遺産にだって? アホな。(その5)
●世界自然遺産の188物件と、自然遺産でありかつ文化遺産でもある複合遺産の29物件を概観すると、素人なりに気が付くことが多々あります。

まず、世界文化遺産の件数は745物件もあるのに対して、世界自然遺産はたった188件です。複合遺産は29物件です。全世界遺産は962件であります。全体に占めるパーセンテージは、文化遺産が77.4%、自然遺産が19.5%、複合遺産が3.8%です。比較して自然遺産が少ないといえましょう。

なぜ文化遺産がやたらと多いのか?
文化遺産は1棟の建物から登録可能で、実際に、原爆ドームが典型的な例です。複数棟であっても1つの建造物とみなせる姫路城とか厳島神社とかの例は多いです。ヨーロッパでは△△城とか、△△大聖堂とか、△△の広場、△△遺跡、などというものが異常に多いです。歴史の長い地域では古い建造物はたくさんあり、これが世界文化遺産が次々に増殖していく理由ではないか? ヨーロッパや中東では自然が古くから改変され破壊され、守るべき自然が残り少ないので自然遺産が少ない半面、文化遺産がやたらと沢山登録されています。

●主だった国々について、文化遺産と自然遺産との比率を観察してみました。すると、文化遺産がやたらと多いのはヨーロッパの国々です。それから、古代文明が栄えたような歴史が長い国々です。下の表にはありませんが、メキシコも文化遺産が多いのですが、アステカやマヤなどのメソアメリカ文明が栄えた国です。要するに、文明が栄え歴史が長い国は必然的に文化遺産が多くなるということでありましょう。日本も自然遺産が4(25%)に対し文化遺産が12(75%)が比較的多いのは同様の理由でしょう。そういえば、サミュエル・ハンティトン教授のベストセラー『文明の衝突』で世界を7大文明に分けて、その1つに「日本文明」を挙げていました。そういう意味では、日本は「日本文明」が栄えた国ですから、今後、世界遺産が次々に登録されるとしたら文化遺産ばかり…、と予想できます。

●日本は7大文明の1つの国であり、歴史も文字による記録が1400年ほどもあり、古い建造物が沢山あります。文化遺産候補に成りそうなものは、比叡山延暦寺、高野山金剛峯寺、京都の寺院群、伊勢神宮、熊野古道が世界遺産であるならば四国88か所廻り…、と候補はいくらでも考えられます。文明国の世界遺産は文化遺産が中心になるから、それらのものがやがて登録されていくでしょう。残念ながら、鳴門海峡の渦潮などお呼びではないのですよ。

●以上のことを逆から見れば、世界の超大国であるアメリカに文化遺産がたった8件しか登録されていないのも首肯できます。建国が新しく、歴史が浅いからでしょう。文化遺産と呼べるような護るべき古い物件がないからでしょう。1972年にユネスコで世界遺産の話が始まったときは文化遺産のみ議論されていて、後にアメリカが自然の物件も含めるべきだと主張したそうです。歴史の浅い国の弱点があったからこそ、アメリカは自然物件もという主張をしたのではないか?

●文化遺産は1棟の建造物から登録可能です。では、自然遺産はどうかと観察してみると、ある程度の面積の土地が登録範囲になるようです。国立公園とか、自然公園など、あるいは絶滅危惧動物の生息地とか、ときには数万平方キロに及ぶ広大な土地が登録対象です。1本の巨木とか1つの岩壁とかでは無理みたいです。たとえば、屋久島を考えてみると、1本の巨木の縄文杉が世界遺産になったわけではなく、屋久島の核心地域の107平方キロの広い山域が登録の対象になっています。知床は711平方キロという広い範囲が登録対象になっています。文化遺産は傾向としては点的、自然遺産は面的なものが指定の対象なので、おのずから文化遺産は登録数が多くなるのではないか?

主な国の文化遺産と自然遺産の比率

世界遺産の分布図 ユネスコ公式サイトから借用
黄色は文化遺産、緑色は自然遺産、赤色は危機遺産です。
世界遺産分布図その1
↑ヨーロッパから中東あたりに黄色の文化遺産が極端に集中分布していて、地域的な片寄が観察できます。ヨーロッパは文化遺産を増やし過ぎであります。アジア・アフリカ・オーストラリアでは文化遺産と自然遺産の比率は適度な割合になっています。緑色の自然遺産は世界にほぼ均一な分布密度で登録されているように見えます。

世界遺産分布図その2
↑建国以来の歴史が短く、護るべき古い物件のないアメリカ合衆国は文化遺産がほとんどありません。南北アメリカ大陸で文化遺産が多いのは、アステカ・マヤ・インカ等の古代文明が栄えた地域とほぼ一致しています。このことは、世界文化遺産の登録基準に、その物件の歴史的な古さを重視していることがハッキリと窺えます。すなわち、100年~200年程度の古さの物件の評価は極めて低く、数百年~数千年の古い物件が高く評価されています。

●さて、拙稿のその1で引用した新聞記事に、<「世界遺産は数多く登録しすぎて質が確保できていない」という批判もあるが、それは文化遺産の話。自然遺産はまだ、“飽和状態”にあるとは言えない。>などと書かれています。

しかし、そうじゃないだろう。文化遺産が飽和状態で質の確保出来ていないのはヨーロッパの話でありましょう。ヨーロッパは文化遺産を増やしすぎなんです。他の地域では文化遺産・自然遺産ともにこんな程度が妥当なところでありましょう。自然遺産も、保護の対象として後世に残すべき第一級のものは、既にほぼ網羅していると思います。これ以上自然遺産を増やしたら、自然遺産もヨーロッパの文化遺産同様に質的低下は免れないでしょう…。自然遺産がまだ飽和状態ではないことは、確かにそうでありましょうが、このあたりで打ち止めにしておかないと、急激な価値逓減が起こるのは必定です。

●私見では日本で世界自然遺産に登録していいのは、あと釧路湿原ぐらいのものです。日本は人口稠密で自然が改変されすぎています。たとえば、平成23年版林業白書によると、日本は森林率66%の世界屈指の森林大国です。ところが森林の40%の面積がスギやヒノキ等の人工林です。残りの60パーセントの面積の森林が天然林です。しかしながら天然林といっても大部分は森林が伐採された後に形成された「二次林」であります。千古斧鉞(せんこふえつ)の入らぬ原生林と言えるようなものはせいぜい2%程度しかありません。つまり日本の自然は徹底的に人の手が入り改変されています。なんとしてでも護りぬかねばならない手つかずの自然林(原生林)は残念ながらほとんど残っていません。また、僅かに残っていても世界的な尺度で見るとあまりにも小規模です。ま、地形でも地質でも植生でも希少生物の生息地でも、日本のものは規模があまりにも小さく箱庭的であります。世界的なレベルでの世界自然遺産というには弱すぎるものばかりです。

鳴門海峡の海域に、絶滅したニホンアシカやニホンカワウソが生き残っていて、それら絶滅動物の一大生息地になっていて保護の手立てが講じられているようなことがもしあったならば、瀬戸内海国立公園を世界遺産に登録し、そのエリアに渦潮という類まれな景観を含んでいるということで、可能性はあるかもわかりません。しかし、鳴門海峡だけでは和泉層群のくぼんだ所が海峡になっているだけにすぎず、なんら特筆すべき地質学的事象もなく、世界遺産としては弱すぎます。まあ、無理でありましょう。

(拙稿は続く)
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