雑想庵の破れた障子
ぺんぺん草に埋もれた山中の雑想庵。 破れた障子の小さな穴から見えるものを綴ります。
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鳴門海峡の渦潮を、世界自然遺産にだって? アホな。(その3)
鳴門海峡の “渦潮” を世界自然遺産にせよという主張は、アラスカで見られる壮麗な “オーロラ” を世界自然遺産にせよとか、アメリカのローキー山脈東側で発生する巨大竜巻 “トルネード” を世界自然遺産にせよとか、韓国済州島の南東方向の上空でみられる見事な “カルマン渦列” を世界自然遺産にせよ、と主張するに等しい…。

●鳴門の渦潮を世界自然遺産に登録しようという主張は、つまり私の住む南あわじ市の中田市長の主張は、自然観察に沈潜している眼には奇異というか、ひどく違和感があるのですが、なぜ違和感があるのだろうか? と考えてみました。それは、おそらく、自然界で発生する “現象” でしかなく、保全したり保護したりする対象ではないことからくる違和感なのでしょう。世界遺産の目的は、条約でハッキリと保護・保存だと言っています。で、現象そのものは保護・保全しようがないのです。自然界で見られる現象は、雷・虹・豪雪・地震・噴火・津波・渦潮・海流・暴風…、といろいろとあります。説明するまでもなく「現象」は自然保護の対象ではありません。中田市長は渦潮という「現象」を世界遺産にと言っているのですが、2重の意味で間違っています。

誤謬その1 …… 世界遺産の目的は、あくまで人類全体の貴重な遺産の保護・保存であります。そして、その世界遺産を現代の世代で破壊や消滅させることなく、後世にシッカリと残して伝えていくことにあります。世界遺産を観光資源などという主張は、目的外流用もはなはだしいということです。このことは絶滅危惧植物(レッドデータ植物)を山野草愛好家たちが値打ちのあるものとして盗掘するのに酷似しています。絶滅危惧植物も保護するために選定しているのであって、山野草愛好家のために値打ちのあるものをランク付けして盗掘を奨励しているのでは全くありません。

誤謬その2 …… 世界遺産として保護・保存の対象は、あくまで “モノ=不動産であり物質” であります。たとえばピラミッドや原爆ドームなど “建造物=不動産” であります。白神山地などでは “土地” であり “森林” でありますが、それらもやはりモノであり不動産であります。現象は保護の対象外であり、また現象それ自体は保護などやりようがないのです。その現象を発生させる条件を具備した土地は保護の対象になることはあっても、現象そのものは物質としての実体がなく保護しようがないのです。それに、物質としての保護対象は常に存在しますが、そこで起こる現象というのは特定の時・条件の場合にのみ起こります。常に起こるわけではありません。渦潮や雷やオーロラは常に発生するのではないのです。


●そういうことを踏まえて考えると、中田市長の主張は、端的にたとえるならば、室戸岬にある室戸測候所はカテゴリー5にランクされる最強の台風(ハリケーンやサイクロンも含めて)が観測された世界最北の観測点です。カテゴリー5の台風は北緯20度や25度ではしばしば観測されますが、北緯33度台という高緯度で観測されるのは異例のことです。室戸台風の911.6hPaというのが観測されています。だから、カテゴリー5の台風が見られる世界最北地点というのは希有なことで、世界自然遺産に十分に値するのだ、と主張するのと良く似ているのです。

●この主張はどこか変です。確かに、米国気象庁のランク最上階のカテゴリー5はめったにないもので、壮大で凄いものです。地上からはその全体像を観察することは困難です。しかし気象衛星が上空から捕えた画像をみると、見事な渦巻です。鳴門の渦潮がたった径30メートルでしかないのに比べると、カテゴリー5の台風は径2000㎞にも達します。鳴門の渦潮の6万倍も7万倍もあります。流体の中で発生する渦巻きとして、鳴門の渦潮も巨大台風も基本的にはそんなに大して変わらないように見えます。もちろん成因には相違がありましょうし、流体の物質の空気と海水の密度は大きく異なります。海水の方が空気の密度の800倍ぐらいでしょうか? 流体の中で渦巻が出来るパターンはいくつかあるようですが、方向の異なる2つの流れがぶつかるとか、速度の異なる2つの流れが接しているとか、流れの中に障害物が存在する場合とか、別にその流体が海水であろうと空気であろうと、発生した渦巻きを見れば良く似ているわけです。したがって、鳴門の渦潮を世界遺産に登録しろと主張するのであれば、台風やトルネードも渦巻だから世界自然遺産に登録しようと主張してもいいわけです。

鳴門の渦潮が世界自然遺産ならば、これもそうだ。済州島の南東海上に発生する見事な カルマン渦列(カルマンうずれつ)! 日韓合同の世界自然遺産だ!
気象庁HPから借用
↑気象庁HPから気象衛星画像を借用しました。衛星画像で観察すると一目瞭然です。北西季節風場の中にに済州島という障害物があるために渦巻が発生しています。

鳴門海峡の渦巻のほうが貧相で、ずいぶんと見劣りします
宇宙航空研究開発機構のHPから借用
↑ 宇宙航空研究開発機構HPのALOSデータ画像特選 から勝手に借用しました。トリミングして海峡部分を抜粋した。 播磨灘側から紀伊水道(太平洋)側に水が流れています。この航空写真を見ると一目瞭然です。鳴門海峡の中心部で流れが速くなっています。両側の岬側が流れが遅いようです。したがって早い流れが遅い流れと接して渦巻が発生しているようです。

● 2枚の画像を観察すると、明らかに渦巻の発生原因が違うように思いますが、流体の中での渦巻ということでは全く同じでありましょう。しかし立派さでは随分と差があります。済州島の風下にできるカルマン渦列と、鳴門海峡にできる渦潮との決定的な違いは、そのスケールの大きさです。

済州島カルマン渦列 …… その規模が大きく雄大です。数百キロ上空の気象衛星からハッキリ視認できます。済州島のハルラ山(1950メートル)から、屋久島の宮之浦岳の距離は506キロもあります。カルマン渦列は大抵その両島の間で発生しています。1つの渦巻は径数十キロにも達し、しかも2列あり、右列と左列とで渦巻の巻きかたが逆になっています。非常に幾何学的な不思議さと面白さがあります。神秘的で素晴らしいものです。まさに自然が見せてくれる素敵な芸術と言えましょう…。理科系の分野の人ならば何故こんな現象が起こるのだろうか?と興味しんしんでありましょうし、非理科系の者であっても自然の芸術作品として鑑賞できます。

鳴門海峡の渦潮 …… 海峡をはさんで僅か2~3キロの水流の中でしか見られません。1つの渦巻は径たった30メートルしかありません。カルマン渦列に比べると千分の一のスケールしかありません。ゾウとネズミほどの差があります。しかも鳴門の渦潮は列を成すわけでもないし、幾何学的な紋様を現わすわけでもありません。非常にちっぽけで、ちゃちで貧相です。数百キロ上空の気象衛星からではとても見られません。渦巻の形も悪く、不定型にして大小さまざま、発生の仕方も気まぐれです。自然界の壮大で不思議な現象の前には、鳴門海峡の渦潮など特筆するほどのことはありません…。


(拙稿は続く)
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