雑想庵の破れた障子
ぺんぺん草に埋もれた山中の雑想庵。 破れた障子の小さな穴から見えるものを綴ります。
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諭鶴羽山系の山菜(その6) 「ミツバ」
●水耕栽培した軟弱な「もやし」のようなミツバがスーパーマーケットで売られています。香りの高い野菜でありますが、本来は自生の山菜です。数少ない日本原産の野菜の一つであります。日本中に広く自生しているのですが、栽培もされます。栽培、とくに軟化栽培が始まったのは江戸時代の享保年間(1616年~1635年)頃であろうと言われています。

芭蕉七部集 の一つで、江戸中期の1698年に刊行された俳諧(はいかい)撰集に、「続猿蓑・ぞくさるみの」という書物があります。その中に、松尾芭蕉の門下生が詠んだ句にミツバが出てきます。

【新日本古典文学大系70『芭蕉七部集』岩波書店 1990年から引用】
 みそ部屋の にほひに肥る 三葉哉  <夕可・せきか>
 みそべやの においにこゆる みつばかな 

(句意)味噌つくりの小屋に近く、三葉芹が青々と葉を伸ばしている。この勢いは、熟せんとする味噌の香を存分に吸ったからであろうか。 俳号の夕可は、美濃の人。
【引用終了】

★みそ部屋というのは、むかしは家毎に味噌を自家製で作っていましたが、大家族であるのが普通で、1年間に必要な味噌も大量でした。で、味噌を作り貯蔵する部屋とか小屋とかがあったのを「味噌部屋」と呼びます。旧家などでは今でも「味噌部屋」の建物が残り、有形文化財に登録されているものが全国にたくさんあります。     
児玉家住宅味噌部屋・乾燥室(長野県の登録有形文化財)
楠森河北家住宅 味噌部屋(福岡県の登録有形文化財)
味噌だけでなく、沢庵など「漬けもの」も家毎に大量に製造貯蔵したのですが、大きな桶を沢山並べるのに場所が必要です。味噌は夏になると “湧く・わく” という現象が起こるので涼しい場所に貯蔵する必要があったのですが、その場所は大きな家では「土蔵」です。土蔵に味噌を貯蔵するならば、「味噌部屋」ではなく「味噌蔵」と言うのであります。

★さて、味噌部屋の建物か、ひょっとしたら味噌蔵の白壁の塀の外にミツバが旺盛に生育しております。葉は大きく茎は太く肥っております。おそらく、味噌の熟成が進んで良い香りがただよっているので、それでミツバが旺盛に生育しているのかもしれません。あるいは味噌の発酵による発酵熱が出て、味噌蔵の周辺が暖かいのかもしれません。そもそも土蔵というのは、冬が暖かく夏が涼しくと、温度変化が少ないように工夫した建造物です。で、味噌蔵のそばが冬に暖かかったのかもしれません。あるいは、味噌の製造にさいして、大豆や米とか大麦等の残滓のようなものが出て、それが捨てられて肥料になったのかもしれません。とにかく青々と良く生育したミツバなので、美味そうだ、お味噌汁に入れるといい香りがしそうだ。というふうなことを詠んでおります。

★このように近世の古典文学にも登場するミツバでありますが、別名をミツバゼリ(三つ葉芹)とも称されていたようで、身近な山菜(野菜)として日本料理に欠かせられないものです。しかし最近は自生品は急激に減少しているような気がいたします。セリ(芹)もそうですがミツバも天然の自生品はなかなかお目にかかれなくなりました。

自生のミツバ
↑諭鶴羽山の南斜面の灘地区では、むかしはミツバなどミカン畑の畔など至る所にあった雑草です。土壌に水分の多い谷筋の畑とか、やや日当たりの悪い半日蔭などに多く、太陽の良く当たる乾燥地にはあまりありませんでした。雑草の如くたくさんあったので、根から引き抜き籠一杯に採取して、酢味噌和えにしてよく食べました。しかし、現在ではミツバは捜すのに苦労するほど少なくなっています。

減少した最大の要因は、ミカン園の耕作放棄であろうかと推定しています。ミツバは、或る程度は人為が加わる環境、たとえば農耕地周辺の林縁で定期的に草刈りが行われる所など、に適応した植物のように思います。人為が加わらなくなると、急速に遷移が進行してミツバは居なくなるようです。

3個の小葉からなるので「三つ葉」
↑ミツバの名前の由来は、“三つの葉” であります。三出複葉であります。が、「三つ葉」の植物は沢山あるわけで、たとえばミツバアケビ・ミツバツツジ類・カタバミの仲間・タンキリマメ・ヤマハギ・ボタンヅル・シロバナノハンショウヅル・淡路島にはないがミツガシワなど、枚挙にいとまがありません。三つ葉の植物はマメ科などに特に多く、たくさんあります。単に三つ葉といえば「三出複葉」を表現しているだけなので、ミツバゼリ(三つ葉で芹の仲間の植物の意味)を標準和名に採用したほうが良かったのではないか?
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