雑想庵の破れた障子
ぺんぺん草に埋もれた山中の雑想庵。 破れた障子の小さな穴から見えるものを綴ります。
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高城山のハリモミの観察
●吾輩はいわゆる山登りではありませんが、山に登る魅力のひとつに、平地では絶対に見ることができない珍しい樹木や草がみられることがあります。気温減率は季節により場所により変化しますが、高度が100mあがると概ね0.6度気温が下がるとされています。0.65度の数字が使われることもあります。今回、高城山の北尾根の登山口周辺の樹木を観察しましたが、標高は1300~1400mあたりです。気温減率から申すと、7.8~9.1度平地 (標高ゼロ) よりも気温が下がる勘定になります。中緯度にある日本列島の本土部では、年平均気温は緯度が1度北上するにつれて概ね0.9度づつ気温が下がります。よって、北緯33度台にあるこの地点の気温は、北緯42度か43度あたりの平地の気温とほぼ同等となるわけです。 つまり北海道の中部あたりで見られる植物を見ることが出来るということであります。ただし、水平距離が1000キロ以上隔離していますから、北海道で見られる植物そのものではなく、その近縁種ということになります。その典型例として、ハリモミ (別名はバラモミ) という樹木を観察しました。

●かつての氷期に気温が大きく下がり、現存する北海道のエゾマツが、あるいはその祖先? ないしは近縁種かもわかりませんが、ようするにマツ科トウヒ属の樹木が が日本列島 (当時は海面低下で4つの島はつながっていたから列島じゃないでしょうが) を南下し、分布を広げたとされます。このトウヒ属植物が南の地方に分布を広げたのは、直近の氷河期のヴュルム氷期なのか、もっと以前の氷期なのかはわかりませんが、(植物化石や花粉分析の情報が集積すれば分かるかもしれませんけど) 氷期が終り、後氷期になって気温上昇とともにトウヒ属植物が北方へ帰って行き、ていうか南の地方に分布を広げていたものが気温上昇に耐えられずに、消えていったのではないか? しかし一部は中部山岳などの標高の高いところに取り残されました。気温の低い山岳地帯に細々と生き残りました。そして万年の時間が経過し、もしエゾマツが南に分布拡大していたのならば、北海道とは距離もあるので種の分化が起こり、元のエゾマツからは少し姿を変えて、変種のトウヒ (標高のやや低いところや南の地方では別種のハリモミ) となってしまった? あるいは南に分布を広げたものはエゾマツそのものではなかったのかも分かりません。論文検索で関連論文を捜してもそういう問題を論じたものが見当たらず、詳しいことはわかりませんが、つまり、ようするに、大台ケ原山のトウヒや剣山地のハリモミは氷河期の遺存種ということなのでありましょう。 ‥‥というふうな理解でいいのかな?

なお、ハリモミは徳島県の絶滅危惧Ⅱ類で、兵庫県方式のBランクに相当します。剣山地のブナ帯で僅かに見られます。林床には実生の子生えが多数ありますが、貴重植物につき採ってはいけません。ていうか、平地に降ろしても育たないと思います。剣山地のハリモミは標高1000~1500mあたりでみられ、氷期の遺存種であるぐらいだから平地の暑い夏が越せないと思われます。



観察場所
↓ 「ファガスの森高城」 から スーパー林道を上の方に900m行ったところ です。何の小屋か不明ですが1棟あります。登山口の標識もあります。尾根筋の登山道をあるき、標高1350~1450mあたりを観察しました。樹林の隙間から、高城山のレーダー雨量観測所が見えています。
高城山の北尾根ルート登山口
高城山山頂を眺める
↓ 高城山の山頂近くにある三角点標石です。ほんまの山頂はこの三角点標石から東側130mのところの標高点になります。ちょうどふたこぶラクダの背中みたいで、両点のあいだは15mほど下がった鞍部になっています。写真で香川県の山岳会が1627.9mとしているのは、旧版の地形図での表示です。国土地理院はときどき三角点標高を見直しています。 三角点は必ずしもほんまの山頂にあるわけではない、ということに山登りは留意するべきです。登山家にしてこれを知らない人がいるには驚かされます! 地形図を見えへんのやろか? 三角点と真の山頂が乖離している他山の顕著な例を挙げます。
鳥取県 伯耆大山 三角点標高1709.4m、真の山頂標高点1729m
北海道 羊蹄山(蝦夷富士) 三角点標高1892.7m、真の山頂標高点1898m
ま、この点に関しては事情があって、以前にはほんまの山頂が明らかに三角点よりも高い場合であっても、山頂の標高点が示されずに、その山のほんまの高さが不明でした。で、便宜的に三角点の標高がその山の高さとされてきました。ところが現行の地形図ではほとんどの山で山頂に標高点が示されています。いくらなんでも今は、山の高さを言う場合、昔の三角点基準ではなく標高点の標高と悔い改めるべきではないのか? よって、高城山の高さは1632mです。1628mじゃありません。

高城山の山頂近くにある三角点


ハリモミ (針樅) の観察
↓ ハリモミの成木です。樹高目測で20m、幹の径30cm。
ハリモミの成木
↓ 別のハリモミの成木です。樹高目測で20m、幹の径50cm。樹形は円錐形でモミやウラジロモミに似ています。葉は濃緑というかやや黒っぽい感じがします。写真左のブナの葉の緑よりもはるかに黒っぽいだけでなく、ウラジロモミよりも黒っぽいです。
ハリモミの成木
↓ 最初の写真のハリモミの幹です。幹径は約30cm。亀甲状のひび割れがあって、剥がれます。
ハリモミの幹
↓ 以下の2枚の写真は、上掲写真2枚目の幹径50cmの樹皮です。亀甲状というか魚のうろこ状のひび割れが顕著で、幹の色も黒っぽい感じがします。やや赤味の入った黒っぽさで、周囲に多いウラジロモミやツガの幹とはかなり異なります。
ハリモミの幹
ハリモミの根元


ハリモミ (針樅) の葉
写真をよくご覧ください。葉をよく観察すると、付近に多いウラジロモミやツガなど他の針葉樹と簡単に見分けられます。
ハリモミの枝
ハリモミの葉
ハリモミの葉
ハリモミの葉
ハリモミの葉
ハリモミの葉
↓ 葉を拡大して観察します。
ハリモミの葉を拡大して観察
ハリモミの葉を拡大して観察


↓ ハリモミの若木です。樹高は吾輩の背ぐらいです。ヨーロッパではクリスマスツリーにはドイツトウヒが使われるらしいのですが、ハリモミはドイツトウヒと同じマツ科トウヒ属です。近縁種なので、クリスチャンの人 (国内に100万人ほどいる) はこのハリモミをクリスマスツリーに使えばいいのではないか? 日本で手に入る最適の樹種です。 なお、クリスチャンでない大部分の日本人がクリスマスツリーを飾るのは、そんなの絶対におかしい。敬虔なる宗教行事をその信仰をもたない者が形式だけまねるのは、冒涜ではないのか?
ハリモミの幼木


ハリモミの分布
ハリモミは、近縁のトウヒよりも少し標高が低いところに生じ、より南の地方まで分布を広げています。 国立科学博物館 標本・資料統合データベース で、ハリモミを検索すると29件の標本がヒットしました。分布地図表示を借用します。四国にはハリモミの産地がプロットされていませんが、これは四国にないのではなく、国立科学博物館の標本庫にはハリモミの標本集積がまだ不十分で西日本の標本が手薄なためだろうと思います。
ハリモミの分布
ハリモミの分布域


【参考】 トウヒの分布
トウヒの分布
トウヒの分布域



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