雑想庵の破れた障子
ぺんぺん草に埋もれた山中の雑想庵。 破れた障子の小さな穴から見えるものを綴ります。
201706<<12345678910111213141516171819202122232425262728293031>>201708
ブナの原生林を観察する (その3)
●先に、こしらえた資料を掲上します。 下表は気象庁のホームページに掲載の 旧 剣山測候所の観測データ ならびに 徳島地方気象台の観測データ から根気よく拾いだしたものです。こうして拾い出すと一目瞭然です。

海抜事実上ゼロの徳島市では巨樹をなぎ倒す50m超の暴風はめったに起こりません。

いっぽう、海抜2000mに近い剣山の山頂では50m超の暴風は毎年起こります。年によっては2回も3回もおこります。季節に関係なく起こります。台風襲来の夏から秋に多い傾向はありますが、50m超の暴風は真冬にも起こるし、春にも起こります。40mや45mならば全く日常茶飯事で、いちいち拾いだせないほど多数の観測事例があります。40mや45mでもその樹に当たる方向しだいでは巨樹が倒されましょう。


ちなみに、南国の四国の剣山でもしばしば冬山遭難死亡事故が起こっています。剣山測候所の職員でさえ殉職しているほどです。昭和40年3月16日に剣山測候所の職員1名が、剣山の東側のピークの一の森の北斜面で雪崩に遭って死亡しました。通信線故障修理中の殉職です。剣山では厳冬期には-15度~-20度、最大風速30mなどしばしばあることで、南国の山だし、北アルプスより1000m低い里山みたいなものだと甘くみて、冬の荒天時に不用意に入山すると大変なことになります。この低温や強風は登山者に非常に厳しいものですが、ブナ帯~亜高山帯の巨樹たちにとっても厳しい環境のハズです。


山の上は風が強い


●このように山の上というのは風が非常に強いところです。ちなみに日本国内での日最大瞬間風速の最高記録は、富士山測候所の91mです。山の上では平地ではありえない暴風が起こるのですが、平地では建物や森や丘や山など沢山の障害物があり風の勢いが減衰してしまいます。山の上では障害物がないので吹きさらしということなんでしょうが、それだけではなく、日本のような中緯度の上空には強い西風 (偏西風) が吹いていますが、高度が上がるにつれてその偏西風帯に近づくということも風の強い要因なのでしょう。 なお、付言するならば障害物がないという条件は海上も同じで、瞬間風速の世界記録はグアム島で米軍が観測した105mでしたか? (つまり障害物のない洋上、ただしトルネードの旋風は除く) で、山の上は風が強いのだ! という先入観をもって、次に陳列する写真を見ればブナ原生林に本当の巨樹がない理由が見えてきます。


根こそぎ暴風で倒されたヨグソミネバリ (カバノキ科)
↓ ヨグソミネバリは、別名はミズメですが、万葉集など古典文学ではアズサで出てきます。シラカンバやウダイカンバは東日本・北日本のものですし、ダケカンバも分布の中心は東日本の亜高山帯ですが、それらの近縁種で西日本の太平洋側のブナ帯に多いのがこのミズメです。そこそこの巨樹になる樹種です。
根こそぎ倒れたミズメ
↓ 根元をズームアップ。
根元
↓ 横倒しですが根元から130cmの幹周を測ると254cmです。巨樹の環境省の3m基準に満たないですが、まあそこそこの大木です。
幹周は254cm
↓ 逆に、根元から先のほうを見ました。
根元から先のほうを見る
↓ 根張りは意外に小さいです。地中深く侵入する直根が見あたりません。地表近くに浅く広がる小さな根しかありません。この樹は地上部の大きさに対して根系 (地下の部分) が貧弱です。この地上部と根系のアンバランスが暴風で倒伏しやすい要因か? という印象がします。
根張りは意外に小さい


こちらはブナの風倒木
↓ 幹の根元のすぐ上でポッキリと折れています。幹の途中で折れやすいのは、おそらく幹から出た枝が折れて菌が入り腐蝕するなど傷があるためではないか? これは海抜1400mのところです。
風倒木 ブナか?

↓ これは根こそぎ倒されました。やはり、根系が貧弱な感じがします。根系が貧弱なのは土壌が薄く直ぐ下が基盤岩であることと関係している感じがします。
また風倒木


↓ 結局、ブナは幹周3m前後になると、暴風で倒されるか、あるいは幹がバッサリ折れるか、あるいは大枝が欠損し傷口からツキヨタケ等害菌が侵入し腐蝕して立ち枯れとなります。で、大木が残らない、あるいは大木までなれない、ということでブナ原生林と言っても意外に小径木が多いです。ブナの原生林

↓ またブナ風倒木です。これは剣山スーパー林道の一番高い所の海抜1540m地点のもの。
ブナの風倒木

●奥山のブナ原生林に、徳島平野のそこかしこで見られる幹周10m前後のクスノキやイチョウの巨樹のような巨大なものが全くない理由ですが、次のような要因ではないか?

①、そもそもブナ帯には度肝を抜かれるような巨大になる樹種がない。
②、急峻な山地であるので土壌が薄く、養分や水分が不足している。
③、海抜高度が高いだけに気温が低いので、植物が生長するための温度不足。
④、ブナ帯の樹木は根系が貧弱で風害に耐性がない。じきにこける。
⑤、樹を枯らす害菌 (ツキヨタケやツガサルノコシカケ) 等が非常に多い。
⑥、山は雲霞がかかりやすく日照が非常に少ない。

⑥をすこし敷衍しますと、ブナ原生林は個々の樹がのびのびと育っているのではありません。押し合いへしあい密集して太陽光を求めて競争しています。自分の枝葉は他者を被陰するし、他者の枝葉の下で自分は日蔭です。そもそも森林の中はそういう関係ですが、標高の高い山は雲がかかりやすく日照が平地よりもかなり少なくなります。そうすると樹木たちは恒常的に日照不足です。樹が大きくなってくると幹が太り樹体の大きさの割に枝葉が少ない状態になります。平地の独立樹みたいにのびのびと生長できないから当たり前です。で、生理的に光合成産物の生産量よりも呼吸量のほうが増え収支マイナスとなって個体維持が出来なくなるのではないか? それには押し合いへし合いしているところに輪をかけて山に雲がかかって日照不足が作用していると見ます。とにかく、ブナ帯の森林では立ち枯れが非常に多いのは事実です。風倒木と立ち枯れが多いために本当の巨樹がないといえましょう。




スポンサーサイト
コメント
コメント
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する
copyright © 2017 Powered By FC2ブログ allrights reserved.