雑想庵の破れた障子
ぺんぺん草に埋もれた山中の雑想庵。 破れた障子の小さな穴から見えるものを綴ります。
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剣山にハクサンシャクナゲを見にいこう! (その6)
剣山は、西日本で植生の垂直分布が見られる数少ない所
●申すまでもなく、動植物が水平方向に広がっているのを水平分布といい、垂直方向に広がっているのを垂直分布と言うのでありますが、普通は垂直方向に高度を増していくと気温が下がります。気温だけでなく気圧もさがるのですが、風も強くなります。富士山測候所 (観測所の高度は3775m) の観測データでは最低気温の記録は-38.0度と本州の平地では考えられない寒さですし、最大瞬間風速は91mと平地ではありえない暴風です。高い所は平地と環境が異なるから、生育する植物もおのずと違います。剣山は北アルプスに比べると千m低いのですが、それでも2千m近くあるから山頂付近は亜高山帯 (亜寒帯) になっています。(日本には亜高山帯は存在せず、温帯の一番上部という意味で寒温帯だという説もありますが) で、剣山に登る道すがら、高度を増すにつれて生育する樹木が変化していきます。数百mきざみで帯状になって特定の樹木が生育してますが、いちいちその垂直分布帯で見られる樹木を何十も列挙していても意味がないので、表徴種的なものを2つか3つ挙げると、

標高 500m以下は 暖温帯  シイ・アラカシ・ツバキ
標高1000m以下は中間温帯 ツガ・モミ・アカガシ
標高1600m以下は 冷温帯  ツガ・ウラジロモミ・ブナ
標高1600m以上は 寒温帯  コメツガ・シラビソ・アカカンバ

●ここで注目するのは、ツガとコメツガです。中間温帯~冷温帯ではツガの木が生育し、寒温帯 (亜高山帯) ではコメツガにかわります。両種はごく近縁の樹木で、1600mあたりの高度を境にして上下に見事に棲み分けています。 「棲み分け理論」 というのは申すまでもなく今西錦司の提唱ですが、彼は川に住むカゲロウ類が川の流れの速さに応じて4種のカゲロウが棲み分けていることを発見しました。4種のカゲロウは流れの速さに適応して姿かたちを変えるのですが、環境の違いが生物の姿を変えさせています。今西のいう住み分けは植物でも見られ、ノイバラが海岸の潮風に当たるところではテリハノイバラになったり、ヒサカキが海岸風衝地ではハマヒサカキになったりなど、例は沢山あります。剣山でも比較的に標高の低いところのシャクナゲはツクシやホンシャクですが、標高の高いところではハクサンシャクナゲなどに変わるのは棲みわけの良い例です。(ただしシャクナゲの場合はただの生息地分割かもしれませんが) でもまあ、今西の言う棲み分けは、棲み分けしている例を集めてきてそう言っているという気もするわけで、近縁種が全然棲み分けていない事例も沢山あるんですわ。それに 「種社会」 などという意味不明の独自用語を作り過ぎという感じがします。今西錦司は没後20年あまりたちましたが、有名な碩学 (大学者) の割には結構ヘンなこともたくさん言っています。 『主体性の進化論』 なんてのは典型例で、「生物というのは変わるべきときがくれば、変わるんだ」 みたいな主張で、そんなの素人が見たって進化の説明になっていません。

しかしながら、今西のいう 「○○は変わるべきときがくれば、変わるんだ」 という口上は妙な魅力があって、言い訳するのに応用できそうです。「この皿は割れるべきときがきたから、割れたんだ」 と言えば、自分の不注意で皿を落として割っても責任を逃れることができます。(通用するかどうかは知らないけど) 原子力ムラの利権者どもも、なんとなく口上が似ていますね。

「フクイチ原発は事故が起こるべきときが来たから、事故が起こっただけだ。もちろん安全対策を十分にしておったが、起こるべきときがくるのはしかたがなく、どないもこないも、しようがないわ。そもそも、形のある物はいつかは必ず崩れるわ。だから、わしらには責任はないんだ」 と言っているみたいです。


以下3葉の写真は、ツガ
↓ 2015年3月23日撮影、雲早トンネル1000m地点にて。主幹から太い枝の分岐が多いのですが、垂直方向に率直に伸びあがる。
ツガ 
線状の小さな葉はびっしりと着きますが、1本1本の葉を観察すると全く不揃い。長い葉は短い葉の3倍ぐらいある。短い葉、長い葉、中間ぐらいの不揃いの葉が互いちがいに枝に着いています。
ツガ
球果の着く柄は、枝に対して曲がっています。下方に垂れるように曲がっています。コメツガでは球果が小さく、果実の柄は茎にたいしてまっすぐですが、球果自体は下を向きかげんなので、分かりにくいです。写真の物は種子散布が終った跡の残骸です。
ツガ


以下3葉の写真は、コメツガ
コメツガは亜高山帯に生じる針葉樹です。ツガよりも葉が小さく、枝も密生するような感じです。剣山では海抜1600~1700mあたりから上ではツガにとってかわってコメツガになります。 ↓頂上ヒュッテの直前あたり (標高1900m) のもの。2015年4月8日撮影。まだ残雪がたくさんあった。
コメツガ
山頂近くの厳しい環境にあるので、幹の太さの割に樹高が低い。縦方向への生育がかんばしくなく、横へ開張している傾向があります。これはコメツガという種の特徴ではなく、環境の影響であろうかと思われます。ツガでも痩せ尾根の乾燥著しい所では伸びすくんでこうなります。
コメツガ
↓ 西島神社付近 (標高1650m) にあったもので4月8日撮影。小さな葉がビッシリと密生しています。
コメツガ


左のものはコメツガ、右のものはツガ
両種を別々に観察したのでは、葉を見ただけではどちらであるのか紛らわしいです。見誤る危険性が大きいです。ところが両種を並べて観察すると葉だけでもハッキリと識別できます。
左がコメツガ、右がツガ


ツガとコメツガをどう見分けるか? ただし剣山の場合。

●コメツガの若い枝には毛があるとされ多くの文献にもそう書かれていますが、剣山のコメツガはルーペでいくら観察しても毛が見当たりません。文献の記述と一致しない面があります。あるいは、春の新梢に毛があっても他所のものとは違って早期に毛が脱落するような性質があるのかもわかりません。が、この点は観察不足です。毛があるかどうかで見分けようとすると間違えます。で、ツガとコメツガをどう見分けたらいいのか? 簡単なようでかなり難しい面があります。 一番確実なのは、分布域がハッキリ違うことに着目します。

【ツガ】 ‥‥‥ 海抜100mの照葉樹林の中にもあります。海岸近くにもあります。ただし、照葉樹林帯では個体数は極めて少ないです。分布の中心は暖温帯上部からブナ帯です。上は1600mぐらいまで。

【コメツガ】 ‥‥‥ ハッキリと亜高山帯にあります。剣山では1650mぐらいから上はみなコメツガです。たとえば丸笹山 (1711m) では山頂付近にコメツガがありますが、1600m以下の山では出てきません。夫婦池付近 (1450m) はすべてツガです。両種の分布境界は画然としています。

であるから、観察するそのツガ属の木の生育標高で判断して間違いないですわ。問題は両種の分布境界線あたりのものです。それは、どちらであるかあえて判断しないのが無難です。あるいはひと枝だけ採取して、もっと上のほうのもの (あるいは下のほうのもの) と葉の大きさを比べることです。そうしたら同じ物か別物なのか良く分かるでしょう。



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