雑想庵の破れた障子
ぺんぺん草に埋もれた山中の雑想庵。 破れた障子の小さな穴から見えるものを綴ります。
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徳川家康が愛飲した幻の薬酒 「忍冬酒」 を作ろう。(その4)     実際の作り方は、口伝が途絶え不明の部分も…。
●スイカズラ = 忍冬(にんどう) は有名な薬草であり、忍冬で作る 「忍冬酒」 は江戸時代ではそこそこ一般的であったのか? 江戸時代の代表的書物にあちらこちらに顔を出しております。 島根大学図書館デジタルアーカイブ  様が、江戸時代の代表的な百科事典であるところの 『和漢三才図会』(わかんさんさいずえ) を学外の者にも見せて下さいます。それで、忍冬が載っているページを借用させていただきます。 『和漢三才図会』 は300年前の1712年に刊行・成立しましたが、大坂の漢方医である寺島良安という人物の手になる105巻の膨大な書物でありますが、くだんの「忍冬酒」については第96巻に掲載されております。

『和漢三才図会』第96巻より
↑スイカズラ(忍冬)には沢山の異名があるみたいですね。金銀花(きんぎんか)ではなく、金銀藤(きんぎんとう?)などと書いてあります。

●お前は、やたらに古色蒼然としてカビ臭い書物を引っ張り出すみたいだな、と言われそうであります。たしかに、そうですけれども、日本は歴史が長い国であります。古い物が沢山あるのです。日本で一番古い書物は、聖徳太子が法華経の注釈書として著わした 『法華義疏』 (ほっけぎしょ) といわれていますが、615年成立です。1400年も前であります。それから日本で一番創業が古い会社は? というと良く知られています。 株式会社 金剛組 (こんごうぐみ) でありますが、578年に創業といいますから1400年以上前の飛鳥時代です。世界で一番古い会社とギネスブックに載っているとか。日本には古い物が山のようにあるのですよ。 身近なことを申しても、私は今住んでいる村の生え抜きの住民ではなく、他所から移住してきた人間ですが、私の出身母村の集落は僅か20軒ほどの集落です。その小さな集落でも長い歴史があり、天正12年(1584年)に大地震がありました。前におった場所で大規模な地滑りがあり、危険で住めなくなりました。そこで集落挙げて現在おる場所に移転しました。これは430年ほど昔のハナシですが古文書の記録が残っているのです。僅か20軒の小さな集落でも400~500年ぐらいならば遡って集落の変遷がわかるのです。

●このように、日本という国は、長い歴史に彩られていて伝統的文化が豊かな国なのです。ただ、北海道だけは明治維新ころ国家の政策で本州から開拓移住した地域ですので、歴史は少し浅いかもしれませんが、津軽海峡以南の地域はどこでも、道端の石仏にも、折々に行われる年中行事にも、ありふれた日常の中に、500年、1000年という歴史が息づいているのです。これが新興国のアメリカとは全く違うところなんです。アメリカは1620年に迫害を受けた清教徒がメイフラワー号でイギリス本土から移住してきたのが、そもそもの国のはじまりでしょうが、アメリカは宗主国イギリスから独立宣言が行われたのが1776年で、まだ建国230年余りでしかありません。歴史が非常に浅い新興国なのです。経済的・軍事的に力をもっているから、世界の警察官きどりで横暴な覇権主義の国ではありますが、世界史的な視点からは、全くの新参者・新興国なのです。言わんとすることは、日本のような歴史の長い伝統的な国が、新参国家のアメリカにぺこぺこするのはおかしいのです。そのような意味からもアメリカが主導権をにぎり、アメリカ基準を押しつけてくるTPPなどに、日本が尻尾を振って入るのは間違いなのです。

余談】 
日本は長い歴史がある伝統の国なのですが、アメリカは歴史がありません。それを象徴しているのが世界遺産でしょう。1972年にユネスコ総会で世界遺産条約が採択される経緯を調べたら、ユネスコは最初は文化遺産のみで発足させようとしましたが、アメリカのニクソン大統領が強い政治的影響力で自然遺産を含めるように働きかけています。ようするに、アメリカは歴史が無いから古い文化遺産が存在しない国です。アメリカはユネスコに沢山の金をだしているのに、文化遺産だけでは歴史の長い国と比べると決定的に不利だ、けれども自然遺産ならば、イエローストーンとかフロリダ半島の湿原とか結構ある、なので世界遺産に文化遺産だけでなく自然遺産を入れろ! と強く主張しています。アメリカには国土は非常に広いのに悲しいかな歴史がないので、世界文化遺産はたった8件しかないのです。では、世界自然遺産が多いかというとそうでもなくたった12件しかありません。国土の広さ、人口の多さから言うと少ないですね。 歴史の浅い国は、世界文化遺産があまりない。
そういう観点から考えると、古色蒼然としたカビ臭いような何百年も昔の書物だとか、柱の材が炭化して黒くなるほどの古い建物などが、大変な価値をもっていることが分かります。


家庭で簡単に忍冬酒を作るには
主に、以下のネットサイトを参考にさせていただきましたが、忍冬酒の作り方は口伝の部分があって、ハッキリ分からない部分もありそうですが、和歌山社会経済研究所 亀位匡宏 『海内無双の紀伊忍冬酒』 2006.3 が精緻な研究で大いに参考になります。紙の書物もあれこれ閲覧したら、江戸時代には、忍冬酒を作る本家本元は紀州(和歌山)であったようですが、伊勢や遠州(静岡県東部)や、九州の筑後など各地で製造されていたらしいです。

楽天市場の すずき米屋様 「徳川家康公の健康酒 忍冬酒」 や、楽天ではないので通信販売に応じてくれるかどうか分かりませんが 遠州夢倶楽部 「こだわり商品 忍冬酒」 が忍冬酒を販売しているようです。自分で作るのはめんどうくさいので、購入して飲んでみるのも一法でありましょう。

忍冬酒の作り方
① 焼酎を5合(0.9リットル)用意します。
② スイカズラの花(できれば蕾のほうがいい)を100グラム採取し、天日で素早く乾燥させます。
③ コウジとモチ米を用意し、モチ米は蒸してコウジと混ぜ合わせます。要するに甘酒の元です。これを100グラム程度こしらえる。
④ 焼酎を容器に入れ、②と③も一緒に入れます。
⑤ 冷暗所で2か月寝かせますが、1週間ごとに攪拌します。
⑥ 2か月ほど熟成させたら出来上がり。濾過してもいいし、上澄みを掬って飲んでもいいです。氷水で割って飲むとよろしい。

甘くて色々な効能のある薬酒であります。作り方はとても簡単です。参考サイト等を見ると、沢山の漢方薬の材料を添加したり、スイカズラの花と等量のノイバラの花を用いたりしております。また、スイカズラの花ではなく葉と茎を用いたこともあるようです。もちろん、漢方薬の材料等が入手できれば添加するのもいいかもしれません。しかし、作り方の根本は単純で、そもそも焼酎に漬け込むだけの果実酒みたいなものでありましょう。コクモンジ酒と違い失敗がありません。

最高権力者の徳川家康が財力と権力で上納させて愛飲したと伝えられるほどの幻の薬酒です。また、江戸時代に遠州の浜名湖あたりの名産であったらしいのですが、東海道を上り下りする参勤交代の大名たちが、こぞって買い求めたらしいです。忍冬酒を飲んだからといって天下を取れるものではありませんが、健康増進のために作ってみませんか? なお、焼酎にコウジを入れると新しく酒 (酒税法第3条で規定する混成酒類のみりん) を作ったとみなされ、酒税法違反に抵触する危険性がありそうですので、「コウジ+もち米」 ではなく氷砂糖で代用する方が無難ですが、自己判断で…。 わたくしは、べつに法律を破ることをお奨めしているわけではありません。 

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徳川家康が愛飲した幻の薬酒 「忍冬酒」 を作ろう。(その3)     先ず、スイカズラの花の蕾を採りにいきましょう。
山の上に自生するスイカズラの花は、紫色っぽいものが多い傾向がある
●先ず、スイカズラの花を採集しますが、淡路島の平地ではほぼ花期が終わってしまいました。しかし、まだまだ山の方に行けば、スイカズラが咲いております。蕾もたくさんあります。500mぐらいの山の上では生物季節が2~3週間遅れるようであります。山の方に自生しているスイカズラの花は、明瞭な金銀花ではなく、なんとなく紫色っぽい花の個体が多いようです。最初は白花ではなく、薄い紫色っぽくて次に黄色になるという感じですが、山に自生するものが全てそうなるというのではなく、そういう物が混じっているということであります。その理由はハッキリしません。

勝手な想像ですが、スイカズラは訪花昆虫が花粉を運ぶ植物であります。スイカズラの花の色とか、花色の変化は、ヒト(人間)が観賞するためにあるのではないでしょう。訪花昆虫たちに花の所在を認識してもらうためにあるハズです。そう考えると、多くの昆虫たちはヒトの目と異なり、紫外線で物を見ています。というよりも紫外線が見えると言われています。そうすると、標高が高くなればなるほど、紫外線の量が平地よりも増えてくるから、平地よりも強い紫外線でスイカズラの白い花が良く見えるようにと、若干紫色を帯びてくるのか?? あるいは逆で、強い紫外線で白い花が見えすぎて眩しいから、紫色を帯びて減光しているのかも?? などと推論してみましたがどうかな?? と考えてみましたが、出まかせの想像です。いろいろなフィルターが市販されているみたいだから、紫外線写真を撮ってみると何か分かるかも??


やや紫がかったスイカズラ
↑ 6月23日、淡路島南部の山岳地帯ではまだ蕾が沢山あった。海抜500メートル付近。平地と違い、山では花が紫色を帯びた個体が非常に多いです。

↓ 2013年6月23日 淡路島南部、諭鶴羽山607.9mで採取した。(これを陰干しします)
スイカズラの蕾
↑淡路島の南部の山岳地帯(諭鶴羽山)で収穫したスイカズラの蕾です。つぼみは白色ではなく、薄い緑色をしています。6月23日(日曜日)に採取。1時間ほどかけて採取しましたが、紫色がかった花の個体が多く、白(薄緑)ばかりでは沢山集められません。もっと早い時期に、5月下旬から6月上旬ぐらいに平地で採取した方が良かったかもしれません。スイカズラは九州から北海道南部まで分布は広範囲なので、長野県など中央高地だとか、東北地方北部や北海道ではいまごろが採取適期であろうかと思いますが、西日本(瀬戸内海沿岸地方)では、もう時季外れになってしまいました。西日本在住者で、忍冬酒を作りたい方は、山登りです。私の観察では、スイカズラは1000mを越える山の上にまで分布しています。西日本でも海抜1000m以上に行くと、東北北部~北海道南部に相当する気温になるので、生物季節が平地よりも1カ月遅れるのです。

↓ “日最高気温の低い方から” のランキングです。気象庁ホームベージから借用。
日最高気温の低い方からのランキング
↑ これは “日最高気温の低い方から” のランキングです。“日最低気温の低い方から” のランキングではありません。意味は全く違うんですが、ちょっと分かりにくいかもしれません…。

●申すまでもなく、北海道は日本屈指の寒冷地であります。道東や道北の冬の放射冷却による極低温には凄いものがあります。防寒具が不十分ならばたちまちに命を奪われる低温です。今年の3月2日に網走の近くの湧別町(ゆうべつちょう)で悲惨な遭難がありました。すさまじい暴風雪で視界ゼロのホワイトアウト、車が吹き溜まりにはまってスタック、父子家庭の父親が低体温で死亡し小学3年生の娘が一人生き残る、という痛ましい遭難事故でした。ま、本州の2000m級の雪山で起こる遭難死が、平地の人家の横で起こるのが北海道たるゆえんでありましょうか。上の表の観測史上の低温記録ランキングに、津軽海峡以南の都府県の観測データでは、どうあがいても全く太刀打ちできないものです。ところが例外というものが必ずあって、上の表をご覧いただきますと、並み居る北海道の強豪に伍して、南の地方から2つの観測所が食い込んでおります。1位に君臨する富士山は別格ですが、まあ、あそこは、いわば南極の昭和基地みたいなところです。

ところで、余談ながら、富士山が世界遺産になったなどと、国をあげて阿呆なお祭りさわぎの祝賀ムードですけれども、水を差すことを言うんですが、安易な登山が増えて遭難事故が急増するであろうと危惧しています…。あそこは気象条件が南極と同等なんですよ。夏でも、しばしば氷点下になるし降雪もあります。山頂の観測所の年平均気圧は638hPaです。海面上の1013hPaの僅か63%しかありません。空気が薄いので症状の個人差はあっても高山病にやられます。激しい頭痛や吐き気でクラクラ、高血圧など既往症のある人は場合によっては命取りです。さらに、瞬間最大風速91メートルの日本記録を保有する山です。5合目から上は、樹木は匍匐状のカラマツとダケカンバが僅かにパラパラとあるだけで、森林限界の上に突き抜けている山なんです。吹きさらしなんです。身を守る木陰も、窪地や岩陰なども全くありません。不用意に登って天気が急変したら恐ろしい目に遭いますよ。夏でも風雨に打たれれば、蒸れない高品質レインウェアーでないとびしょ濡れで凍死です。雷も恐いです。登山道で雷に見舞われても身を伏せる岩屋はありません。上からではなく、横からバシッと乾いた音がしたら即死です。平地みたいに遠くでゴロゴロなどではありません。前触れもなく突然にバシッと来るんですよ。山の雷は恐いですよ。富士山に登るのだったら絶対に高層天気図を読図する知識が必要です。高層天気図をチェックすれば雷の発生の有無は予想できます。落石も非常に恐いです。富士山は石炭がらが積もったような山です。非常に崩れやすく落石が多いです。動画を見ると恐いですねえ。そもそも富士山は観光気分で安易に軽装で登る人が多いから、遭難事故がけっこう発生し毎年必ず10人前後の死人が出ています。私は、国を上げてのアホウな馬鹿さわぎの祝賀ムードは自粛するべきだと思います。
遭難事故が増えないようにとお祈りいたします…。


↓ これを見たら、本当は富士山が大変恐い山であることがよく分かります。
  世界遺産登録の祝賀気分など、木っ端みじんに吹き飛んでしまいます。



残念ながら、平地ではスイカズラの花期が終わりました。山へ採りに行きましょう
●余談に力が入りましたが、それはさておき、上掲の “日最高気温の低い方からランキング” で、なんと徳島県の剣山(1955m)が堂々と12位に食い込んでおります。現在では、気象庁のリストラで残念ながら剣山測候所は廃止されてしまいました。しかし過去の観測データによると、8月の剣山の気温は、おおよそ日最低気温が13~14度くらい、日最高気温が18~19度程度です。このように山の上は非常に気温が低くなるので、サクラの開花も、新緑の展葉も、1000m以上では平地より1か月も山頂では1カ月半も2か月も遅れてしまいます。


拙ブログの記事が1カ月遅くて、淡路島の平地では、既にスイカズラの花期はほぼ終わっています。タイミングを外しました。それで諭鶴羽山(柏原山でもいい)か、あるいは遠征出来る方は、徳島県の剣山の中腹に採りに行くといいでしょう…。

追記
●富士山は海抜2400mまで車でいけるんですが、その高度で既に空気が薄くなっています。海抜2000m高度の平均気圧は799hPa(海面の79%)です。実際に登る標高差は1300m余りですけれども、物凄く体力を消耗します。安易に、観光気分で登る山ではありません。どうしても登りたいのであれば、普段から、エレベーター等には絶対に乗らず、階段をかけ足で登るとか、休日には30キロの砂袋を背負って坂道を歩くとか、体力養成の訓練をするべきです。本当に山の好きな人びとはそうしていますよ。そういう心構えであればまさかの事態でも、生きて帰れる可能性がグンと高くなります。世界遺産になったなどと浮かれていると、観光気分の安易な軽装登山が増えて、悲惨な遭難事故が増えるのではないかと、本当に心配しています。先日、ニュースキャスターの辛坊治郎氏が、小型ヨットで太平洋を渡ろうと企てて遭難事件を起こし、大勢の人々に迷惑をかけました。救助に莫大な国税が使われて、いま、辛坊氏はコテンパンに批判されています。山で遭難して救助を要請した場合、救助費用が請求される場合があります。事例ごとにケースバイケースでしょうが、救助は必ずしもタダではありません。山頂で骨折とかで動けなくなって、民間ヘリコプターが来てくれた場合には高額請求がきますよ。100万とか200万単位です。行方不明者を捜索するのは、たいていは長引くし大勢の民間人が出るので1千万単位です。資産家・高額所得者でないかぎり、山岳保険に入らないで絶対に山に登ってはいけません。海でも山でも、一つ間違えたら命がけなんです。死と隣り合わせなんです。

●安易な登山が増えると予想され、その意味から、富士山が世界遺産に登録されたのは間違いであります。2、3年後には富士山は世界遺産になるのではなかった、という後悔の声が各方面から出てくるでしょう…。賭けをしてもいいです。観光客が増えるのは一時的な効果です。じきに熱は冷めるでしょう…。観光客増加を見込んだ設備投資が過剰となります。それまでなかった規制や保全費用だけが残ります。いいことが全然ない、ということが見えていますよ…。


(拙稿は続く)

徳川家康が愛飲した幻の薬酒 「忍冬酒」 を作ろう。(その2)     スイカズラは300年前の 『大和本草』 に収録される薬草。
忍冬酒をこしらえる前に、まず観察を致します
江戸時代の有名な本草学者に、貝原 益軒(かいばら えきけん・1630年―1714年) という偉人がおります。本草学者というのは、今風に申せば、博物学者であり植物学者であり生物学者でありましょう。明治以降に西洋の生物学や農学が入ってくる前までは、貝原益軒が日本の歴史上最高の生物学者であるとの誉れが高いのですけれども、貝原益軒の代表的な著作が 『大和本草』(やまとほんぞう) であります。その大和本草にスイカズラが載っていますので見てみましょう。

【↓ Wikipediaから写真を借用。国立科学博物館所蔵のものらしい
大和本草

【↓ 中村学園様 貝原益軒アーカイブ からスイカズラの項目を借用させていただきます。】 国立国会図書館デジタル化資料でもネットから閲覧できるのですが、中村学園様のほうが鮮明です。
『大和本草』 (やまとほんぞう) のスイカズラ(忍冬)の記述

●なんともはや、古色蒼然として、カビ臭いような古い書物ではあります。しかし、こんな古臭い物と、バカにしてはいけません。この書物こそ日本独自の植物学の夜明けを飾る金字塔であり、不朽の書物であります。しかし、一般にはとっつきにくいかもしれません…。あまり身の上を明かすのはマズイですが、山のキノコは学部しか出ていませんが一応文学部国文学科の出身です。ミミズの這うような変体仮名の崩し字が出てこようが別に抵抗はないのですが、今の若い人は戦前の書物、たとえば夏目漱石にしても森鴎外でさえも、既に古典になってしまっているようです。冒頭は次のように書いてあります。江戸期以前の書物には一切句読点がないので、文意の切れるところで適宜句読点を打ちます。
忍冬(にんどう)スヒカズラ。諸々のかずら、皆右にまとう。忍冬のかずら左に巻く。故(ゆえ)に、左纏藤(さてんとう)と言う。花開くとき白し。2、3日を経て黄に変す。故に金銀花(きんぎんか)と言う。

●この大和本草の記述により、スイカズラを江戸時代中期に「金銀花・きんぎんか」と言っていたことが分かります。また左巻きの蔓植物だという意味で、「左纏藤・さてんとう」などとも言うらしいです。花が咲くときには、最初は白で、2、3日後に黄色になることなど、貝原益軒は正確に観察しています。スイカズラの花・茎・葉を陰干しにして、煎じて服用したり、酒に漬けこんで薬酒にして服用したらよろしい。腫れものが化膿して膿がたらたら出るような、すなわち、免疫力が低下して感染症が起こるような体が弱っているときには、著しい効果があると言っています。普段からお茶の替わりに飲めばなおよろしい。和え物にして食べてもいい、と言うふうなことを言っています。

花のアップ

●花は非常に面白い形をしています。花冠の下部は筒状で長細いです。花冠の先は5つの裂片に分かれていますが、上に4裂片が認められますが基部は合着しています。下には1裂片が反っています。ちょうど、手の親指を下に向け、残り4本の指を上に向けているみたいなケッタイな形状であります。
送粉昆虫が来て、めしべが受粉すると花が黄色に変わるなどと書いてある書物もありますが、果たしてそうだろうか? スイカズラの枝を持ち帰り、花瓶に挿して数日間観察しましたところ、家の中には訪花昆虫はおりませんが、最初白だった花が翌日にはみな黄色に変わりました。受粉などしなくても黄色に変わることは間違いないみたいです。白から黄色への花色変化は、受粉に依存するのではなく、時間に依存しているように思われます…。


クチナシも黄花と白花がある
↑ クチナシも花色が、白 → 黄色に変化します。花色が変化する植物は野外で観察すると南あわじ市でも結構あります。花色変化は普通説明されるのは、花粉や蜜を求める訪花昆虫は先ず白花に来て、目的の花粉や蜜を集め、その際にめしべの頭柱に花粉を受粉させる。受粉したら花の色が変化して、もうこっちの花は花粉も蜜も(つまり報酬)はありませんよ、こっちへ来ないでね、と昆虫たちにサインを送っているとされますが…、多くの花は自家不和合性であっても、そうではない物もあるし、夜行性の訪花昆虫は花の色を見分けられるのか?ということもあります。ま、花の種類によっても違うかもしれないし、諸説あったりで、よう分かりませんです。

スイカズラは蔓草で他物に巻き上る
↑ これは南あわじ市灘土生(なだはぶ)の落石防止の金網に巻きついて登るスイカズラの蔓(つる)です。これを右巻きと言うのか? あるいは左巻きというのか? 意外に難しい問題であります。別に混乱なんかしていませんが、歴史的に変遷があり書物により記述が違うので、うろたえる面はありそうです。佐竹義輔ほか『日本の野生植物』1982年、や『学術用語集 植物学編 増訂版』1990年、に倣うならば左巻きです。

左巻き……S字巻き。自分の手の甲を見て右手の親指の方向(左肩上がり)につるが登っていく。
右巻き……Z字巻き。自分の手の甲を見て左手の親指の方向(右肩あがり)につるが登っていく。

40年ほど前に定義が変更されて逆になってしまったことが、混乱しているように思える原因なのでしょう。最近の書物・論文・解説文などは全て上記のようになっているハズです。広島の植物ノート様 「つる植物の右巻きと左巻き(詳細版)」 がとても参考になります。


【これで、はなはだ簡単でございますがスイカズラの観察は終わりといたします。次回に、いよいよ徳川家康が健康のためにと愛飲したという忍冬酒を製造いたします】

徳川家康が愛飲した幻の薬酒 「忍冬酒」 を作ろう。(その1)     スイカズラは日本薬局方に収録されている薬草。
徳川家康が愛飲していたという忍冬酒を造って、水割りで飲むのはいかが? ただし、忍冬酒を飲んだからと言っても、天下は取れませんが…。

●スイカズラ科スイカズラ属の スイカズラ であります。ありふれた蔓草で、野でも山でもどこにでも自生しております。わが南あわじ市では意外に多いのは海岸で、写真は南あわじ市灘の沼島汽船乗船場の近くの防波堤で撮りました。防波堤のコンクリートの隙間に根を伸ばしているみたいです。土壌が無い、乾燥、強日射、コンクリートの照り返しによる高温、潮風などの悪条件(本当にそうかどうかは不明ですが)にもびくともせずに、元気よく頑強に育っております。本来は非常に丈夫で環境の変化にも適応力の高い蔓草のような印象がいたします。アメリカやヨーロッパに持ち込まれてスイカズラがはびこり、害草化しているらしいのですけれども、むべなるかなという感じであります。

●これは、素人なりに長年自然観察をしている私の直観ですが、海岸は強風や乾燥や潮風など多くの植物には条件が良いとはいえない環境です。そういうところでスイカズラが意外にはびこり元気よく生育しているのは、他に競争相手の植物が少ないからではないか? 内陸部の多くの植物が生育しやすい環境のいいところでは、競争相手が多くて、必ずしも競争に勝てない。しかし、海岸では実は環境が悪いのではあるが、競争相手が少ないからスイカズラが我が世の春を謳歌できる…、のではないか? つまり、ヨーロッパやアメリカにスイカズラが帰化してはびこり害草化していることと本質的には同じ…。

スイカズラの全草
↑ 南あわじ市灘土生の防潮堤で元気よく生育するスイカズラ。コンクリートの壁に登っております。

スイカズラは有名な薬草
身近にあって忘れ去られた薬草に、スイカズラがあります。薬の品質規格基準書であるところの厚生労働省の 『日本薬局方・にほんやっきょくほう』 にニンドウという名で収録されています。国家のお墨付きの薬草であります。“忍冬・ニンドウ” と言えば中国の有名な漢方薬でありますが、中国のニンドウにごく近縁の蔓植物のスイカズラも成分は変わるものではなく、古くから人々の間で薬草として利用されてきました。とりわけ、400年余り前に、戦国武将たちが群雄割拠して内戦・分裂状態の日本国を統一して最高権力者の座に就いた徳川家康が、スイカズラから作る “忍冬酒・にんどうしゅ” を愛飲していたことは良く知られてています。しかしながら、西洋医学の薬が普及するにつれてスイカズラが薬草であったことは次第に忘れ去られ、家康が愛飲したという忍冬酒も全く幻の薬酒となってしまいました…。


酒税法違反に当たるかも?
淡路島南部の南あわじ市の山野では、6月の今頃がスイカズラの花期であります。もう花期は終盤かもしれませんが、身近なところで沢山咲いております。ありふれた普通種でありますが、本種は歴史上有名な薬草です。焼酎にスイカズラの花とコウジとモチ米を投入して糖化発酵させて造るのですが、ひょっとしたら酒税法違反に抵触する可能性が無きにしも非ずです。コウジで糖化発酵させても甘酒になるだけでアルコールはできません。アルコール分は最初にある焼酎の分だけです。さらにアルコールを醸造させるわけではないのですが、禁じられているみたいです。で、その作り方を研究してみましょうということであります。(実際に作るのではなく、文献調査等により作り方の研究です。逃げ口上ではありません。)実際につくるのは焼酎と氷砂糖で作ります。これならば酒税法違反に抵触しないみたいです。ま、逮捕されるのも厭わない方は、コウジを入れるといいでしょう…。

薬事法違反に当たるのかどうか??
なお、スイカズラは忍冬という名の生薬の原料であり、この忍冬(ニンドウ)は厚生労働省の 『第十六改正日本薬局方』 に収録されています。で、スイカズラで忍冬酒を造ることは薬事法に抵触しないか? という危惧が少しありそうですので、造るまえに、造っても良いものかどうか厚生労働省に問い合わせしたほうがいいかもしれません。


スイカズラで徳川家康が愛飲した忍冬酒をつくるのは、いろいろとヤバい面がありそうですから、実際に家庭で作るのはこっそりと造る必要がありそうです。“忍冬酒が出来たよ!” などと、おおっぴらに吹聴するのはマズイです。逆に申せばヤバイからこそ造ってみたいのが人間の心理でもありますが…。

スイカズラの花は金銀花
↑ スイカズラの花です。南あわじ市では花期は5月下旬~6月中旬ぐらいですが、山の方にいくと結構遅くまで咲いております。1個1個の花の寿命は2~3日なんですが、次々に咲いていくので花期は1カ月ぐらいの幅があります。葉は個体によって変異が大きく、丸っこい物から長細いもの、時には葉の縁がギザギザになったものなど変化に富みます。花も最初は白で翌日に黄色に変化しますが、変化の程度もその個体により差がありそうです。時には紫がかった薄い赤い花のものが出てきます

スイカズラは日本薬局方に収録されている!
第十六改正『日本薬局方』1563頁から
↑ 平成23年3月24日、厚生労働省告示第65号の 『第十六改正日本薬局方』 1563頁を写真に撮りました。本品はスイカズラの葉及び茎であると書かれています。それにしても、居ながらにして厚生労働省のホームページで日本薬局方が閲覧できるようになったのは、便利な時代になりましたね。昔は大きな図書館に行かないと見られませんでした…。

●話題が少しそれるのですけれども、スイカズラの学名は上掲の写真引用にある通り、Lonicera japonica Thunberg であります。しいてカタカナ読みすれば、 “ロニケラ ヤポニカ チュンベリー” でありましょうか? 学名は申すまでもなく “属名+種小名” の二名法で斜体字で書き、できれば命名者を付記するものでありましょうが、スイカズラの学名の命名者は有名な チュンベリー のようです。ケンペル、シーボルトと並んで江戸時代の日本に西洋医学をもたらした出島の3学者です。みな医者であると共に博物学者・植物学者であり、日本の近代化に果たした貢献は偉大でありましょう。たしか、日本史の教科書にも名前が載っていたと思います。

(拙稿は続く)

諭鶴羽山系の薬草(番外編) 野生状のカラタチ
●柑橘類の果皮などに含まれている「オーラプテン」という物質に、発がん抑制作用があることが分かって大分年数がたちます。京都大学大学院農学研究科 村上 明 『オーラプテンの機能性研究を振り返る』参照。その間に、柑橘類の新品種開発の世界においても、オーラプテンの含有率の高い新品種ができないものかと研究され、カラタチとオレンジとの細胞融合によって「オレタチ」という品種が出来たのはたしかもう20年以上前だったと記憶しています。10年前ごろには苗木の販売も始まりました。があまり売れているようには思えませんが、ガン予防の機能性食品として、オレタチという名の新柑橘が店頭に登場するのも間近ではないかと思います。

●また、農林水産省果樹試験場興津支場(現 農研機構果樹研究所カンキツ研究興津拠点)で1994年に、カラタチにハッサクや晩白柚を複雑に交配させて、オーラプテンの含有率の高い「オーラスター」という柑橘の新品種を開発しています。オレタチにしても、オーラスターにしても基礎になった品種は「カラタチ」であります。どのように品種改良しようとも、実は、オーラプテンの含有率が突出して高いのは「カラタチ」なのです。ま、原種が一番価値があるという典型的な例であるといえます。独立行政法人・農研機構のサイトを掲示しますから、ご参照ください。
果樹研究所 カンキツ「カラタチ」「オレタチ」
オーラプテンを高含有するCTV免疫性のカンキツ新品種「オーラスター」

素人のイチャモンですが、「オレタチ」も「オーラスター」も普及しないでしょう。売れないでしょう。ま、これらは研究のための研究みたいなものであります。配分される研究費を消化するための研究かも? 賭けをしてもいいです。そもそもこれらは食品です。クスリではありません。これらを常に食べているとガンになりにくいかも? という程度のものです。食品であるからには、風味・値段が普及のカギになりますし、生産者にとっては儲かる素材でなければなりません。これらの観点から???という感じです。農林水産省果樹試験場が開発した新品種には、産業的には空振りになったものが沢山あります。空振りのほうが多いかも?? 出版や音楽事業と同じですね。大ベストセラーや大ヒット曲はめったに出ないのです。(果樹園を一新させるヒット新品種はめったに出ない…)

●それよりも、屋敷の生垣にカラタチを植えて、秋に黄色く色づいたら果実をかじったら宜しい。カラタチの果実は種子だらけで、果汁が少なく、酸っぱくて苦いですが、“良薬は口に苦し” です。なぜカラタチをかじった方がいいのか? 根拠は次のデータであります。先に挙げた農研機構サイトから引用します。
オーラプテン含有率
↑農研機構の開発した新品種「オーラスター」は若干ましではありますが、何と言ってもカラタチをかじるのが一番宜しいのは明白です。秋・冬にはカラタチの実をかじり、春から夏には「川野なつだいだい」つまり「夏ミカン」の皮をかじるとよろしい…。

諭鶴羽山系にはカラタチが点々と野生化しています。
諭鶴羽山系には、ほとんど谷ごとにカラタチの野生化したものがみられます。海抜400メートルの高所にもカラタチの立派な大木を見ています。これから本格的な秋を迎えると果実が黄色く熟すでしょう。ガンの予防になる機能性成分のオーラプテンを大量に含む健康果実であります。酸っぱくて苦くて果汁が少ないのが難点ではありますが、地面に落ちて腐らせるのはモッタイナイです。籠をもって採りに行きましょう!
(2012年9月13日、洲本市鮎屋川 大城池奥にて観察)
カラタチの果実が色づく
↑色づくには、ちょっと早いですから、この木の枝の中に虫が入っているのかもわかりません。
カラタチの果実
↑任意に20個ほどの果実の径を測ってみましたところ、30-43ミリの範囲に分布していました。
カラタチの葉
↑トゲも葉もともに互生しています。トゲも葉腋(ようえき)から出ていますが、トゲは葉の上側(枝の先端側)についています。トゲは葉の変化したものとも、枝の変化したものとの、両説がありますがトゲは葉の上に着くから枝の変化したものじゃないのかな? (よく分かりませんが…)
葉は3出複葉で、頂小葉が他の2つの左右の小葉よりもやや大きく、任意に20枚ほど測ってみましたところ長さ45-63ミリの範囲に分布していました。葉柄にはつばさがあります。
諭鶴羽山系の薬草(4) クヌギ・アベマキ・コナラ   生薬名は 樸樕(ボクソク)
●ブナ科のドングリが成る樹木の皮が、『第十六改正日本薬局方』に収録されている生薬であるなどとは全く知りませんでしたし、こんなものが薬になるのか? と驚きです。クヌギ、コナラ、ミズナラ、アベマキの樹皮が樸樕(ボクソク)という名の生薬だそうです。

クヌギ ……… 諭鶴羽山系に沢山あります。普通種。
コナラ ……… 諭鶴羽山系に沢山あります。普通種。
アベマキ …… 私は諭鶴羽山系で1本だけ見つけた。当山系では希産種。
       ただし淡路島最北部付近にはよく見られる。
ミズナラ …… そもそも、淡路島には分布していません。

淡路島に分布していないミズナラという樹木は、コナラのごく親戚の樹木であります。隣の徳島県の山を観察すると海抜800メートルぐらいから上にあるように思います。標高の低い所にはコナラ、標高の高いところにはミズナラと、ハッキリと 棲み分け(すみわけ) ているように見えます。ミズナラは「水楢」でその材に水分が多いから言うそうですが、冷温帯の2次林を形成する樹木であり、諭鶴羽山系は600mほどしかないためミズナラが分布していないのです。海抜高度がすこし足りませんでした。

厚生労働省「日本薬局方・にほんやっきょくほう」ホームページ

厚生労働省 『第十六改正日本薬局方』

【第十六改正日本薬局方 1581ページから抜粋引用します】
第十六回改正 日本薬局方 1581頁より
第十六回改正 日本薬局方 1581頁より

クヌギの樹皮
これはクヌギの樹皮です。幹の径60㎝ほどのものです。下に掲げたアベマキの樹皮ほどの荒々しさはありません。クヌギの樹皮は、ヒトの顔が十人十色であるのと同じように、個体によってかなりの個性があります。しばしば下に掲げたコナラと変わらないようなものも出てきますから、樹皮だけでなく葉や、ドングリを包んでいる殻斗というお椀の状態など観察してから、同定したほうがよろしそうです。

クヌギの枝葉
これはクヌギの枝や葉です。クヌギは里山の代表樹種ですが、昔は炭焼きや薪に大切な木でした。昭和30年代の燃料革命で薪炭の需要がなくなった後は、シイタケ栽培の重要樹種です。シイタケの原木栽培はほとんどがクヌギかコナラで行われています。林業試験場の栽培試験データを見ると、クヌギの方がシイタケ発生量は多いようです。ただし原木(ほだ木)の扱い方はクヌギの方が難しいようです。

昆虫の好きな少年たちは、夏休みになるとこのクヌギの大木に日参です。 ボクトウガという蛾の幼虫がクヌギの幹に穿孔して材の中に入り、穿孔口から樹液がタラタラと出るんですが、この樹液が虫たちの大好物なのです。で、カブトムシ、ヒラタクワガタ、カナブン、オオスズメバチ、キマワリ、ショウジョウバエ…、いろんな種類の虫たちが麻薬に吸い寄せられるように集まってきます。で、捕虫網を手にした少年たちは毎日クヌギの大木に日参なのです。コナラも樹液を垂らすことは垂らすのですが、小学生を持つお父様は、息子にカブトムシを捕ってとせがまれたら、コナラよりもクヌギを捜すほうが宜しいですよ。

アベマキの樹皮
アベマキの樹皮です。クヌギとの違いは、この樹皮です。クヌギと比べると、ずいぶんと亀裂が深い半面山が盛り上がって、荒々しいです。その山も亀裂も全く不規則です。樹皮が奇怪に盛りあがっている様子は、まるで樹皮のオバケみたいです。怪獣の肌みたいで、盛り上がったものが今にも剥がれ落ちそうであります。これはコルク層というのが発達しているためだそうですが、昔は瓶の栓に使うコルクをこのアベマキから採取していたらしい…。

英語版 Wikipediaより 「学名 Quercus suber、通名 cork oak、日本名 コルクガシ」 を見るとヨーロッパ南部 ~ アフリカ北部に分布するコルクガシはコルク層は物凄く発達しています。コルクを採取するために栽培もされて、“コルクガシの畑” の写真が見られるのですが、コルク樹皮を剥がした後は赤褐色で、ちょうどバクチノキみたいで特異な風景です。

左アベマキ、右クヌギ
左アベマキ、右クヌギ
↑上の2枚の写真は、写真中央よりも左にアベマキの葉を置いています。中央より右にはクヌギの葉を置いています。どちらも葉の表と裏とが分かるように置いています。
アベマキは葉の裏側が小麦粉をまぶしたように白っぽくなっています。葉の形状もやや幅が広いようです。一方、クヌギは葉の裏側は表側よりも緑色が薄いのですが、小麦粉をまぶしたような白っぽさはありません。葉の形状もやや幅がせまいようです。アベマキの葉の裏を顕微鏡で100倍で観察したら、葉裏全体に星状毛や短毛がびっしりありました。それらの毛が光を乱反射しているために粉白色にみえるのだろうと思います。

『大阪自然』様が、これはクヌギだろうか? これはアベマキだろうか? と真剣に悩まれておられます。どちらとも言えない、あるいは、どちらでもあるというふうな “中間型” が出てきて決めかねるというのはよくあることです。双方の自然交雑種なのか? あるいは、あくまでもその種の個体変異の幅の最も端にあるものなのか? 自然観察をすればするほど悩みが深刻になるのが常ですが、顕微鏡写真を見せてくれています。

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【以下3枚の写真は、コナラです】
コナラの地方名として、「ホウソ」という言い方が広い範囲で見られますが、淡路島南部でも山仕事をしたりシイタケ栽培をする人々が「ホウソ」と言っています。里山の代表樹種であり、シイタケ栽培の重要な原木です。これは誰でも知っている木なので、下手な説明は割愛です。
コナラの樹皮

コナラの枝葉

コナラの葉の表と裏
諭鶴羽山系の薬草(3) サンショウ
●サンショウというのは日本版ハーブであり、料理に香りを添える日本原産香辛料であります。その刺激性はかなり強烈です。その小さな果実を口に含み、噛んでつぶすと、舌がジンジンとしびれてきます。まるで舌に麻酔をかけられたように麻痺してしまい、1時間ぐらい舌の感覚がおかしくなります…。

●プロの料理とアマチュアの料理の違いはいろいろありましょうが、その一つに、プロはその料理に香りや色どりを添える脇役の一片を必ず添える、ということがありましょう。例えば、お吸い物には必ずユズの薄切り片を加えるとか、酢の物にはミョウガの千切りを少しあしらうとか、焼き物にはハジカミの甘酢漬を添えるとか…、であります。その添え物の一片があるかないかで料理の見た目ががらりとかわります。日本自生ハーブであるところのサンショウは料理の名脇役でありますから、薬草というよりも山菜として人々に認識されているでしょう。木の芽あえや、アサリの味噌汁に散らしたり、その実を佃煮にすると絶品です。秋に出来る黒い種子をすり鉢で潰して粉にすると、胡椒のような振りかける香辛料になりそう…。

●この山菜であり香辛料であると思っていたサンショウが、日本薬局方に収録されている生薬であったとは驚かされます。ふつうは芳香性健胃薬として知られ、整腸代謝を進める効能があり、果皮を粉にしたものを食後30分に服用すると、胃もたれの緩和に宜しいらしいです。サンショウの葉を潰してその汁をガーゼに含ませ、「できもの」に当てておくと膿を吸い出し症状の改善に効果があるとか…。
第十六回改正 日本薬局方 1510頁より

サンショウの木

サンショウの実
↑南あわじ市八木成相ダムにて。諭鶴羽山系ではどの谷にも自生する普通種です。ちょっと捜せばどこにでもあります。どちらかと言うと、湿った谷筋に多い傾向があるようです。乾燥する尾根には少ないです。それと、せいぜい2~3mの高さにしかならない低木であり、陽光が当たらないと育たない陽生植物ですので、森の中にはまずありません。森の林縁が自生場所です。必然的に谷筋に多くなる…。(つまり谷や川の中には樹木が生えませんから、谷に沿ったところが林縁になる)

それとサンショウという植物はパイオニア種としての性質を示しています。人為的にまた自然災害的に新しい裸地が生産されたら、真っ先に侵入してくるのがパイオニア種であります。たとえば新しく林道などが切り開かれたら、その道の法面にサンショウがすぐさま侵入してきます。そういうところを探すと宜しい。

サンショウの実の収穫
↑山菜として葉を採取するのであれば新芽の出る3月が採集時期ですが、実の佃煮であるとか薬用にするのであれば夏が採集時期であります。実が小さいので沢山採集するには根気が必要で、こんなものを採るのは男性には向かないでしょう。


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紛らわしい近縁種が2種あります。

●薬草として、あるいは山菜として、サンショウの葉や実を採集する場合には、次の2種がとても紛らわしく、間違える可能性があります。イヌザンショウは個体数も多く、サンショウと極めて紛らわしいです。しっかりと見分けないとサンショウ嫌いになるでしょう。フユザンショウは諭鶴羽山系では個体数が極めて少なく、なかなか目にすることができません。

常緑性のフユザンショウ
↑これはフユザンショウです。南あわじ市北阿万の奥の美女池という池からさらに奥に行った所、分水堰の手前300メートルです。車道の側ですので観察しやすいです。フユザンショウは雌雄異株ですが雌株しかなく、雄株は日本列島からまだ発見されていないとか…。

日本植物生理学会 質問コーナー 「フユザンショウの結実」
フユザンショウが雌花しかなく、したがって雄株の花粉が受粉しないのになぜ種子ができるのか?? 花粉なしに種子ができるメカニズムは専門家集団にも分からない…。もしかして雄株がどこかにあるのか? 雌株に雄花が混じって咲いているのか? テンナンショウ属植物みたいに性転換しているのか? まだ何も調査されず、何も分かっていない。自然界にはまだまだ謎がいっぱい…。ということで一読の価値のある問答です。

常緑で冬でも緑の葉がついているので「冬山椒」の意味であります。ただし、常緑といっても冬には夏よりも明らかに葉が減るようです。若干の落葉性を持っているのではないか?と思います。フユザンショウは、その葉の香りや刺激性はサンショウよりも若干弱いのですが、実のほうの性質はフユザンショウもサンショウも全く同等です。サンショウの代用品に立派になります。

香りの悪いイヌザンショウ
↑これはイヌザンショウです。犬山椒の意味でありますが、この「犬」という言葉は「本家ではないもの、紛い物」「役に立たないもの」という意味合いを含ませています。実際にイヌザンショウはその香りがはなはだ悪く、サンショウの代用品にはなりません。

【サンショウ類を見分けるポイント】
サンショウ類の見分けるポイント

★フィールドで実際的に見分けるのは、トゲの付きかたに注目です。トゲが互生ならばイヌザンショウです。それと葉が厚く小葉が2~3対ならばフユザンショウです。花など標本にしない限り野外で観察できるのは1~2週間のちょっとの間です。

諭鶴羽山系の薬草(2) ハマボウフウ
●自然度の高い砂質海岸に生育しているハマボウフウは、上等な山菜 であり、栽培もされる高級食材であります。料理に香りと彩りを添える名わき役として、たとえば刺身のツマなどに利用されます。ハマボウフウを単品の食材として扱う場合は、他のセリ科の山菜と同様に甘酢との相性がすこぶる宜しいです。著名な料理ブログの 小太郎のまんぷく日記 様もハマボウフウ料理を種々試作されていますが、しっかりと「ハマボウフウの甘酢漬」という一品を作っておられます。 

●また、ハマボウフウは『第十六改正 日本薬局方』に収録されている生薬でもあります。解熱作用や沈痛作用があるとされます。風邪による発汗や、発熱、頭痛、関節痛などに効くとされます。

第十六改正日本薬局方 1570頁より

ハマボウフウの根茎の採集のしかた
結実したハマボウフウ
↑7月25日の状態です。果実が熟し終わり、複雑な散形果序が跡かたもなく崩れ、株元に散乱しています。この散乱した果実はやがて風に吹かれ、砂浜の小動物に蹴散らかされて更に拡散し、砂に埋もれていくことでしょう。
結実したハマボウフウ
↑こちらはまだ散乱していません。まだモコモコと茶色いカリフラワーみたいな状態で、複散形果序の秩序を保っていますが、エントロピー増大則に従ってやがて散乱していくでしょう。

●この上2枚の状態の物が採り頃です。採集時期は夏です。上のものは何年生かは不明ですが相当な古株であります。ハマボウフウは1回繁殖型の植物ではありません。1回繁殖型というのは、その植物が一生の間に1回だけ繁殖する(すなわち1回だけ種子を生産する)ことであります。ハマボウフウを観察すると、5月から7月にかけて開花し種子を生産したのち、盛夏になると枯れてしまいます。で、1回繁殖かと勘違いしそうですが、地下の根茎が生きていて、早春に再び葉を出してきます。複数回は繁殖(種子生産)しているようです。で、資源保護の観点からできるだけ古い物を採取する必要があります。これならば、どうせやがては枯れていくものですから、掘ったとしても自生地の大きな破壊にはなりません。1年生や2年生の若い個体を掘るのは厳として避けなければなりません。

これは未開花のまだ若い個体群
↑未開花株の若い個体群です。このようなものは採ってはいけません。若い個体は盛夏になっても枯れずに、秋遅くまで青々としています。淡路島南部の海岸では氷点下になることはほとんどないので、冬でも青々としていることもあります。(さすがに今年は厳冬だったので冬のハマボウフウはほとんど枯れていました)

掘り上げたハマボウフウの根茎
↑何回か既に繁殖したであろう古株を掘ってみました。根の先端がちぎれてしまいましたが50㎝前後の長さです。径2.5~2.8㎝程度です。水洗いして砂をおとしてから、4本まとめて重さを測ると495gでありました。で、丁寧に先端まで掘ればハマボウフウの根茎は長さ60~70㎝ぐらい、重さは100g余りであろうかと思います。ちょっと見た感じは小ぶりのジネンジョ(ヤマノイモ)そっくりであります。

★これを細かく刻んで半日で一挙に乾燥させればいいでしょう。平安時代から薬草として利用されてきたようでありますから、風邪をひいたときに煎じて服用すればいいでしょう。風邪をひかなくても周囲で風邪が流行りだしたら早めに服用すればいいかもしれません。

ところで、これはキンピラゴボウ(きんぴらはまぼうふう)が出来るのじゃねえか? ゴボウそっくりだ。

ハマボウフウの果実
↑これはハマボウフウの果実です。本種は海流散布の植物なので、この果実は水によく浮かびます。畑で栽培するために果実(種子)をすこし採取しました。ご希望の方にはおすそ分けいたします。ハマボウフウの種子は発芽率が悪いので多めに蒔くとよろしいです。また種子は翌年の早春まで休眠するので、早く蒔いても芽がでません。種子を吸水させ冷蔵庫で3カ月よく冷やして蒔くと、うまくすると秋遅くに発芽するようです。ビニールを掛けて保温すれば早く栽培できます。

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【ハマグルマが見頃を迎えています】
ハマグルマ(別名ネコノシタ)
↑これはハマグルマです。葉の表面がネコ(猫)の舌のようにザラザラなので別名がネコノシタです。開発の手が加わわっていない自然度の高い砂浜海岸の指標植物ですが、南方系の植物です。北方系のウンランと並んで良好な砂浜の植物として双璧をなしています。
諭鶴羽山系の薬草について
●諭鶴羽山系の海岸部から山頂まで沢山の植物が見られます。狭い地域ではありますが、岩石海岸から砂浜海岸、深く浸食された谷、なだらかな尾根、岩石累々の痩せ尾根、断崖絶壁、山系の北斜面の裾には扇状地などがあり、地形は複雑で、それぞれの環境に適応したさまざまな植物が生育しています。惜しむらくは海抜高度が僅か600mしかないので、顕著な垂直分布が見られないのは残念です。それでもこの山系に生育する植物は1100種ぐらいあるのではないか? と思います。

●その中には薬草としての有用植物も数多く含まれているハズです。そこで、諭鶴羽山系に自生する薬草を網羅するリストを作成してみました。薬草(生薬)といっても、「草根木皮」という表現もあるように木あり草あり、利用する部位も樹皮あり根あり葉ありで色々です。漢方薬として定評のあるものもあれば、民間療法的な薬草もありましょう。薬草のリストを作ると言っても、どういう基準でその植物を薬草とみなすか難しい面もありそうなので、『日本薬局方』に収録されているものという基準で抽出してみました。

諭鶴羽山系の薬草の全リスト
『第十六改正日本薬局方』に収録されている生薬の植物のなかで、諭鶴羽山系に自生が見られる植物を抽出しました。

厚生労働省「日本薬局方」ホームページ

厚生労働省『第十六改正 日本薬局方』

諭鶴羽山系の薬草

●リストには、本来の自生植物だけではなく、帰化植物(オニユリなど)も含めています。栽培品が逸出し、野生化したものが、ある程度定着しているもの(クコなど)も含めました。民間で薬草と重んじられていても日本薬局方に収録されていないもの(ヨモギなど)は一切入れていません。厚生労働省が生薬と認定したもののみです。

拙ブログは撮り溜めた写真があるわけではなく、その都度、写真を撮っているので次々にというわけにはまいりませんが、ぼちぼちと諭鶴羽山系の薬草の紹介記事を書きたいと存じます。

諭鶴羽山系の薬草(1) トチバニンジン 生薬名は竹節人参(チクセツニンジン)
トチバニンジンの赤い果実
トチバニンジン
↑シャクナゲ自生地の直前の湿った斜面にトチバニンジンがあり、早いものは果実が色づいていました。写真には3個体写っています。ただし3個体ではなく地下の根茎で繋がっている可能性が少しですが有り得ます。一番手前の物には葉が4枚あります。20枚ではありません。掌状複葉で1枚の葉は5個の小葉から構成されています。てのひら状の葉が トチノキ の葉に似ていて朝鮮ニンジンに近縁種であるからトチバニンジンという名前が与えられたらしい…。

●図鑑類など書物の写真や図をみても、またネットの Googleの画像検索「トチバニンジン」 を見ても、どうやら諭鶴羽山系に自生するトチバニンジンと他の地方のそれとは葉の形状がだいぶん異なるようです。諭鶴羽山系のものは小葉の幅が狭く細長く、すこし華奢というか弱弱しい感じがいたします。


トチバニンジンと朝鮮ニンジンは薬効が異なる
有名で高価な朝鮮ニンジン (オタネニンジン) と同じ仲間の植物でありますから、歴とした薬草であります。ただし、オタネニンジンとは薬効が全く異なるらしい。 イー薬草・ドットコム 薬用植物一覧表から トチバニンジン(チクセツニンジン) を参照。チクセツニンジンとはトチバニンジンの生薬名で、地下の根茎が竹の節のように見えることから言うのだそうです。引用すると、「竹節人参 (ちくせつにんじん) は、苦味が強く健胃(けんい)、去痰(きょたん)作用、解熱作用があるために、胃のつかえ、消化不良、食欲不振、気管支炎などに用います。1日量5~8グラムを、水0.5リットルで約半量まで煎じつめたものを1日3食間に服用します。」

【伊沢一男『薬草カラー図鑑②』89頁には次のように記されています】
<オタネニンジンとの薬効とは別> 地上部の形状はオタネニンジンとよく似ているが、地下の根茎は甚だ異なり、竹節人参と人参 (薬用人参、朝鮮人参) は同じように使用するものではない。竹節人参は苦味が強く、健胃・去痰作用がまさり、人参のように新陳代謝機能を盛んにする作用、強精・強壮、病後の回復などは期待できない。


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トチバニンジンは日本薬局方に収録されている
厚生労働省「日本薬局方・にほんやっきょくほう」 ホームページ
【引用】 「日本薬局方は、薬事法第41条により、医薬品の性状及び品質の適正を図るため、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めた医薬品の規格基準書です。日本薬局方の構成は通則、生薬総則、製剤総則、一般試験法及び医薬品各条からなり、収載医薬品については我が国で繁用されている医薬品が中心となっています。日本薬局方は100年有余の歴史があり、初版は明治19年6月に公布され、今日に至るまで医薬品の開発、試験技術の向上に伴って改訂が重ねられ、現在では、第十六改正日本薬局方が公示されています。」

厚生労働省 『第十六改正日本薬局方』
【第十六改正日本薬局方 1544ページから抜粋引用、画像に撮った】
第十六改正 『日本薬局方』 1544ページより抜粋

●要するに、諭鶴羽山系の谷の奥の湿った樹陰に生育しているトチバニンジンは、ただの雑草ではありません。厚生労働省のお墨付きの第一級の薬草であります。徳島県などでは生薬として栽培もされているようです。このトチバニンジンはシカの 「不嗜好植物」 なので、食害で減ることもなく、良く捜せば山系全体に点々と生えております。

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