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雑想庵の破れた障子
ぺんぺん草に埋もれた山中の雑想庵。 破れた障子の小さな穴から見えるものを綴ります。
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ジェヴォンズ経済学で “破局“ を回避できるかも?
ジェヴォンズというのは19世紀のイギリスの経済学者です。
Wikipediaフリー百科事典より 『ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズ』
彼は1865年に著わした『石炭問題』(The Coal Question、邦訳なし)の中で、英国の石炭供給が徐々に枯渇しつつあることに対して警鐘を鳴らしました。そして、“石炭の燃焼効率の改善などの技術革新” により問題が解決されるわけではなく、逆に、技術革新が石炭消費を促進し枯渇を早めてしまうと主張ししました。つまり、予想とは全く逆のパラドックス(逆説)が起こるというのです…。

これは “ジェヴォンズのパラドックス” という言葉でよく知られています。

100年以上も前に、日本では明治維新(1867年)のころに、そんな主張をした経済学者がいたとは驚きです。全く現代の状況を予言するような卓見です。残念ながら『石炭問題』は邦訳がありません。アマゾンで原書を手に入れて読むのはちょっとしんどいので、次の論文で概略を知ることができます。
上宮智之 2001 「W. S. ジェヴォンズ『石炭問題』における経済理論」
↑上宮智之先生は経済学史を専攻する若い研究者(30代前半か?)のようです。この論文は博士課程前期の頃に執筆されたと推定できます。とても為になる論文です。『石炭問題』の概略について紹介しています。

●当時、英国では石炭枯渇が大きな問題となっていました。石炭使用にかんして、蒸気機関など機械を改良して効率化・節約化をすれば、この石炭枯渇問題を解決できるという見方がありました。しかしジェボンズは、2つの点からこれを否定しました。

1、技術改良は、改善の余地が徐々になくなる。やがて全くなくなる。

2、もし効率的・節約的に機械が改良されたならば → 生産費が減少
 して利潤が増える → 新規参入者が増える → 産業が肥大化する
  → あらゆる産業は関連している。ある1つの産業の拡大は全ての
 産業の拡大を招く → その結果、石炭消費量が増加するであろう。

●現代の状況について例をあげて考えてみましょう。ジェボンズの言っていることが良く理解できます。

旧式エアコンが電力を沢山食って電気代が高くて困る…。電力消費量を減らすために性能の良いエアコンができないものか? で、技術者たちが研究に研究を重ねて性能のいいエアコンを開発した…。電力消費量が半分の新型エアコンが完成! さて、これで社会全体の電力消費量は減らせるか? ですが、全く逆になります。

まず、性能のいい新型エアコンは電気代が僅か半分です。しかも電器メーカーが熾烈な競争をするから価格も安くなりました。すると各家庭では2台目を買おうとなります。3台目も欲しいな、やがて各部屋には全部新型エアコンをつけることになります。電気代も安いからついエアコンを付けっ放しにしてしまいます…。結局、家庭でも社会全体でも電力消費量は増加します。新型エアコンの需要もふえますから、新規の電器メーカーが参入して生産量が増えます。エアコン製造業界の肥大化です。

つまり性能の悪くて値段も高い旧式エアコンのほうが、電力消費量が少なかったのです。電力消費量を減らそうとして技術改良を行いましたが、その技術改良が逆に電力消費量を増やすという “パラドックス” が起こるのです…。

●トヨタ自動車の看板車 “プリウス” がいくら増えても社会全体のガソリン消費量は減らせない…。のです。たしかにプリウスの燃費は素晴らしいです。けれども燃料消費量が少なくて済むというのは、ガソリン代が気にならないということであり、つい用もないのに走り回る…。走行距離は増えてしまう、結局ガソリン消費の絶対量は減らせません。それと、たとえガソリン消費というランニングコストが低くても、プリウスの製造段階でのエネルギー投入というイニシャルコストが高いという問題もあります。

せっかくプリウスを購入しても日曜ドライバーであまり乗らなければ、エネルギー削減効果(ハイブリッド効果とでも言おうか?)はありません。プリウスと同クラスの非ハイブリッド車を比較して、プリウスの方がエネルギー消費が少ないと言えるのは、私の試算したところ走行距離が3万キロを越えてからです。それはプリウスは構造が複雑だったり電気モーターやバッテリーとか余計な物を沢山搭載しなければならないから、部品製造や組み立て段階で沢山のエネルギーが投入されるからです。

結局、プリウスが同クラスの非ハイブリッドカーと比べて、総合的な(つまりライフ・サイクル・アセスメントの手法による評価で)エネルギー消費が少なくエコであると言うためには、どんどんと走り回らなければならないという “パラドックス” が生じてしまいます。どんどん走り回った上でという条件下では、非ハイブリッド車と比べるとエコであるというだけです。(本当のエコは、車を買わない使わない、です。できるだけ公共交通機関を利用するとか、自転車で行く、歩く、であることは論を待ちません)

日本のエネルギー消費の推移
↑の図の出典は、経済産業省・資源エネルギー庁HP 「日本のエネルギー事情」から

大企業の走狗の経済産業省のHPはなにも隠していない…。
ちょっと見にくい図なので、資源エネルギー庁のHPを直接見る方がいいです。赤の実線は国内総生産(GDP)の伸びです。青・黄・赤の網掛け部分は、部門別のエネルギー消費の推移です。この図から2つの重要なことが読み取れます。

1、1973年の第一次オイルショックから1990年まで国内総生産が約2倍に成長しています。ところが、エネルギー消費は目分量で読み取って2~3割の増加しかありません。このことは産業部門を中心にして強力な省エネが推進されたことを雄弁に物語っています。

2、しかしながら、1990年以降はエネルギー消費と国内総生産とは全く平行で連動しています。完全に一致しています。これは省エネ技術での、改善余地がほとんどなくなったことを物語っています。また、いくらエコ家電だ、エコカーだ、と官民あげて取り組んでもエネルギー消費を減らせないことを示唆しています。エコだ環境だと騒ぎだして20年ぐらいか? その間日本のエネルギー消費を減らせたであろうか? この図の意味するところを謙虚に読み取る必要があります。

●本当にエネルギー消費を削減し、ゴミをへらし、色々な環境負荷を減らそうと思うのならば世の中を不況にするしかありません。贅沢を慎みほどほどに暮し、質素倹約につとめるしかないのです。環境技術を磨きエコ商品を普及させると環境にもいいし経済成長できるんだ、などと蒙説を言う主流派経済学者たちは間違っていると思います。そもそも「環境」と「経済成長」は相反するものなのです。税金や補助金を流し込んで公共投資など無理やりに需要を創出するケインズ経済学はもう時代遅れです。歴史の波間に消えていった19世紀のジェヴォンズ経済学を再評価する時期が来ているのです……。
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成長の限界、環境収容力を越えて殖えることはできない…
いつも思うのですが、政策担当者やエコノミストや政治家などは「成長しなければいけない」と常に主張しています。彼らのスローガンは高い経済成長率の標榜です。経済は常に成長しなければいけない、成長なくして国家の経済政策の運用はあり得ない。成長しなくては命がない…、と言わんばかりも膨張主義であり、拡大路線を走ろうとしています。「成長しなければ国家がひっくり返る」とでも思いこんでいるようで、ほとんど脅迫観念にとりつかれています。

自然観察の観点から見れば、この拡大膨張主義ほどおかしいものはありません。とても滑稽です。そもそも無限の成長などありえません。しばしば指数関数的に増えるとか、成長するとかいう表現がされます。あるものが1年後に2倍に成長するとしたならば、年々、2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、64倍、128倍、256倍、512倍、1024倍…、と10年後には1000倍に成長してしまいます。現実にはそんなことは絶対にありえないです。個体群生態学では「環境収容力」という概念を教えています。“拡大膨張” できるのはおのずと上限があるというのです。ま、難しい理論など引っ張り出さなくても、当たり前といえば当たり前のことです。次の写真は、環境収容力いっぱいに成長した姿です。もう席は満席です。これ以上だれも乗車できません。

ヒシが池の面を覆い尽くす
↑何年か前にはホテイアオイがこの池の面を覆い尽くしていましたが、池の管理組合の人たちがホテイアオイの除去を徹底的にやりました。ホテイアオイは生えてこなくなったのですが、今度はヒシが大繁殖です。ホテイアオイの陰でかろうじて息を永らえていたヒシは、ヒトがホテイアオイを駆除してくれたのでわが世の春が出現。この池はやや富栄養のようですし、水深が浅いのでヒシには良い環境です。一挙に大繁殖です。池全面をほぼ覆い尽くしました。もうこれ以上殖えようがありません。
(写真の奥の方はヒシが密集して葉が空中に立っています。写真の手前の方は葉が水面に寝ています。それで手前の方はもう少し増殖できる余地はあるかもしれません…)

ヒシが1年でどれぐらい殖えるかは観察していないのでわかりませんが、5倍くらいか?? 毎日見ている池なのに何も見ていなかったようです。それはともかく池の面積が一定である以上、これより更にヒシが増殖するのは難しいです。生息密度を上げて繁ように生育するという形で少しは増殖するかもしれませんが、大幅に殖えることはないでしょう。この池のヒシは“成長の限界”に至っています。環境収容力いっぱいになり飽和状態です。

さて、家電製品の普及とか、生物の個体群の増殖の数学モデルとして「ロジスティック曲線」というのがよく知られています。グラフにすると、Sというアルファベットの両端を手で持って左右に引っ張ったようなものです。↓こんな感じです。(あるサイトから借用しました)

ロジスティック曲線

これはテレビとか携帯電話とかの普及曲線です。最初はゆっくりと、中頃には弾みがついて爆発的に普及します。終盤には市場は飽和してしまい普及は打ち止めです。普及率95~98%になったらそれ以上は増えようがない…。世の中には意地でもテレビや携帯電話を買わないというへそ曲がりは必ず居るので、100%の完全普及にはならない…、です。

動植物の個体群の成長も全く同じです。ため池のヒシが生育するのに良い条件がそろっていれば、そして毎年の増殖率が同じならば指数関数的に増殖するでしょう。グラフで勃興期から急成長期にかけての部分は指数関数で近似できるでしょうが、やがて増殖率(成長率)が急激に鈍ってくる筈です。ヒシがあまりに殖えてくると養分が不足してくるとか、ヒシの葉が水面を広く覆って太陽光が水中に入らず、溶存酸素の低下が起こるかもしれません。アレロパシー(他感作用)という用語もあるように、自らが出す化学物質で環境を汚染し自分自身がやられる、というふうなことも考えられます。いろいろな要因で増殖率が落ちてきましょう。それよりも池の面積には限りがあるので、増殖の限界があるのは自明です。

政治家やお役人は、年がら年中セイチョウ、セイチョウとお題目ばかり唱えていますが、社会経済現象であれ動植物の増殖であれ、無限の成長などあり得ないことを忘れたらいけないと思います。世の中には飽和する限界、環境収容力という制約に頭をおさえられるのです……。
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